徹底解説!次世代イマーシブ・オーディオ・コーデック「Auro-Cx」
Live Extremeは2023年以降、AURO-3D (Auro-Codec)、Dolby Atmosなどイマーシブ・オーディオ配信機能を順次追加してきましたが、2025年11月にリリースされた Live Extreme Encoder v1.17 では、AURO-3Dの次世代コーデックである「Auro-Cx」に、ライブ配信エンコーダーとして世界で初めて対応しました。今回はその Auro-Cx について技術解説したいと思います。
尚、本記事は、過去にご紹介したAURO-3Dの概要や、Auro-Codecの圧縮方式について理解していることを前提に書かれております。まだ下記の過去記事をお読みでない方は、先に読まれることをおすすめします。
Auro-Cxの特長
Auro-CodecがもともとBlu-ray Discに収録することを想定して開発されたフォーマットであるのに対し、Auro-Cxはインターネットでのストリーミングを想定して開発されています。イマーシブ・オーディオ・コーデックとしては最後発の1つで、2023年のCESで発表されました。
最大24chのチャンネル・ベース・オーディオに対応
Auro-Cxは最大24chのチャンネル・ベース・オーディオに対応しています。Auro-Codecで対応していたAuro 9.1, Auro 10.1, Auro 11.1, Auro 13.1はもちろんのこと、ステレオ、5.1chサラウンド、7.1chサラウンド、9.1.6ch、22.2chなど、いかなるチャンネル・レイアウトでも取り扱うことが可能です。
Scalable Channel Coding
Auro-Cxでは、元のディスクリート・チャンネルをそのまま保持するのではなく、イマーシブ・オーディオからサラウンド、サラウンドからステレオへと順次ダウンミックスをし、その過程で得られた中間データの一部と、
最終的なステレオ・データのみ保持しています。これを "Scalable Channel Coding" と呼びます。

(色付きのチャンネルのみファイルに収録される)
デコード段階では、逆にステレオからサラウンド、サラウンドからイマーシブ・オーディオへと、チャンネルを分離していくことになるわけですが、この手法が巧みなのは、再生環境のスピーカー構成やCPU性能に応じて処理を打ち切れる点にあります。
例えば、7.1.4chコンテンツをデコードするのに、スマホ再生なら2chまでのデコード、ハイトスピーカーが無い部屋で再生するなら5.1chまでのデコード、といった具合で、効率的に処理を行い、CPU負荷を下げることができます。
オブジェクト・ベースにも対応
Auro-Cxはオブジェクト・ベース・オーディオにも対応しています。このオブジェクトは、以下のような利用方法があります。
座標メタデータとともに、ダイナミック・オブジェクトとして収録する(再生時にレンダリングすることで、いかなる環境でもリアルなパニングを実現)
ダイアログをスタティック・オブジェクトとして収録し、多言語切り替えやダイアログ・エンハンスメントなどの機能を提供(Personalized Audio)

Auro-Cxでは、ベッド・チャンネルとオブジェクトを組み合わせて利用することも可能です。
シーン・ベース(アンビソニックス)への対応
Auro-Cxは最大24chの音声に対応しているので、原理的には3次までのAmbisonicsを扱うことができます。ただし、Auro-Cxのデコーダには1次Ambisonicsのデコーダーしか搭載されていないので、Auro-Cxで対応しているのは実質1次Ambisonicsまでと考えたほうが良さそうです。

Ambisonicsの信号をベッド・チャンネルやオブジェクトと組み合わせて収録することもできます。
ロスレス(最大192kHz/24bit)を含む3種類のコーディング・モード
Auro-Cxでは、最大192kHz/24bitのロスレス・モード、Auro-Codecと同様のニアロスレス圧縮アルゴリズムを採用したトランスペアレント・モード、周波数ドメインでの間引きによりビットレートを大幅に削減したロッシー・モード、という3種類のコーディング・モードを規定し、数十kbpsから数十Mbpsまで幅広いビットレートに対応しています。

非常に強力なABR機能
インターネット速度は視聴環境によってまちまちなため、ストリーミングではABR (Adaptive Bitrate) という技術を使うのが一般的です。これは、同一コンテンツに対し、配信サーバー内に低ビットレートから高ビットレートまで複数のストリームを用意しておき、視聴者側のプレイヤーが通信状態に応じて最適なストリームを選択して再生する、というものです。
Auro-Cxのデータは、異なるビットレートはもちろんのこと、異なるサンプルレートや異なるコーディング・モードであっても、シームレスに繋げて再生することができます。これがストリーミング用フォーマットと言われる所以で、サーバー上に192kHz/24bitロスレス・データから、48kHzの低ビットレート圧縮データまで用意しておけば、ハイレゾ音質と再生安定性を両立可能な、究極のイマーシブ・オーディオ配信を実現することができます。

Auro-Cxの再生方法
スマホ (iPhone / Android) で再生する
Artist ConnectionのiPhone / Androidアプリには、Auro-CxのデコーダーとAuro-Headphones(バイノーラル・エンコーダー)が搭載されています。これにより、Auro-Cxをヘッドホンで立体音響再生することが可能です。

AVアンプで再生する
Auro-Cxの伝送方式は、「IEC 61937 Part 15: Non-linear PCM bit streams according to Auro-Cx format」として規定されており、規格上はHDMIで伝送することが可能です。2025年10月現在、Auro-Cx対応のHDMI機器は発売されていませんが、今後AURO-3D対応のAVアンプが順次Auro-Cxに対応していくものと見込まれています。
では、Auro-Cx対応AVアンプが普及するまでの間はどうすればいいでしょうか?実は、Artist ConnectionなどAuro-Cx対応のSTB (Android TV / Fire TV) アプリには、Auro-CxをAuro-Codecにリアルタイム変換してHDMI出力する機能が搭載されています。これにより、既存のAURO-3D対応AVアンプであっても、Auro-Cxコンテンツを再生することができるようになっています。

Live Extremeでの対応
Live Extreme Encoder v1.17から、Auro-Cxのライブ配信機能が追加されています。チャンネル・ベース・オーディオのみの対応ですが、最大チャンネル数は仕様上限の22.2chとなっています。

Auro-Cx配信仕様
配信方式: ライブ配信, 疑似ライブ配信, オンデマンド配信
配信プロトコル: HLS, MPEG-DASH
サンプルレート: 44.1kHz, 48kHz, 88.2kHz, 96kHz, 176.4kHz, 192kHz
コーディング・タイプ: ロスレス, トランスペアレント, ロッシー
チャンネル・ベース: 2ch, 5.1ch, 7.1ch, Auro 9.1 (5.1+4H), Auro 10.1 (5.1+4H+T), Auro 11.1 (5.1+5H+T), Auro 11.1 (7.1+4H), Auro 13.1 (7.1+5H+T), 9.1.6ch, 22.2ch
ABR (Adaptive Bitrate) への対応
Live Extremeはこれまで映像のABRのみに対応し、音声のABRは非対応でした。Auro-Cxでは例外的に、最大7段階のビットレートを設定することができるようになっています。
Live Extreme Encoderは、入力された1系統のマルチチャンネル音声信号から、複数の異なるサンプルレート、コーディング・タイプ、ビットレートを有するAuro-Cxストリームをリアルタイムに生成することが可能なため、ハイレゾ音質と再生安定性を両立したイマーシブ・オーディオ配信を簡単に実現することができます。

Auro-Headphonesエンコード
Live Extreme Encoderには以前から「HPL」というバイノーラル・エンコーダーが搭載されていました。これによりヘッドホンで体験可能な立体音響配信を実現できるほか、配信現場での音声モニターとしても重宝されてきました。
Live Extreme Encoder v1.17からは、バイノーラル・エンコーダーとして「Auro-Headphones」も選択できるようになりました。HPL同様、対応チャンネル数はステレオから最大22.2chまで、サンプルレートは192kHzまで対応しています。

一般的に、バイノーラル・エンコーダーには部屋の反響音(インパルス応答)を付加する処理が含まれます。Auro-Headphonesでは、以下の4種類のルーム・タイプの中から任意の反響音を選択することが可能ですので、音楽ジャンルや映像の雰囲気に合わせて、配信者が最適なものを選択すると良いでしょう。
ホームシアター
ラウンジ
映画館
コンサートホール

Auro-Headphonesはもともと、AURO-3D用のバイノーラル・エンジンとして開発されたものですが、エンコード結果をAuro-Cx (ステレオ) として配信するだけでなく、通常のFLAC音声 (ステレオ) として配信することもできます。FLACはあらゆるデバイス/ブラウザで再生可能ですので、AURO-3Dの音質をどなたでも体験できるようになります。
まとめ
Auro-Cxはその優れたABR性能により、数あるイマーシブ・オーディオ・コーデックの中で最もストリーミング配信に適したフォーマットと言えます。特に通信速度が変化し続ける車載向けの技術としては、有力な選択肢となりそうです。
Auro-Cx対応のLive Extreme Encoderは、2025年11月にリリースされたばかりですが、実はリリース前の6月に、β版を使った業界関係者向け配信イベントがベルギーで行われており、好評を博したそうです。Live Extremeにより、Auro-Cxの普及に拍車がかかることを願いつつ、今後の動向に注目していきたいと思います。

(Auro-3D公式のfacebook記事より)
