一打必刀 七剣士物語 ~心ひとつに~ 其の一
☆前作までのあらすじ
宇津木琴音、月島光。恩師。友達。切っても切れない物がそこにあった。雪代響子は一度、剣道を辞めた。いや、捨てた。それだけの実力と実績がありながら。それでも心のどこかに残っていた剣道への愛着。総武学園高校で剣道を再開したはいいものの、高校剣道は中学時代とはまた違った悩みが多発して。
自分以上に悩む者、苦しむ者。それを表現できるのは竹刀と竹刀を交えるだけと悟った響子は、今日も剣道を続ける。
そして、それは次なる章への幕開けとなる。
七剣士物語 第2章
スタートです!
「東京都代表石館中学の雪代響子と聞いていたから、対戦を楽しみにしていたのだけれど」
すべてを見透かし、すべてを圧倒する。同じJCとは思えない。人形に成り下がっていた私には大きすぎる存在。
「これなら鹿児島県南薩摩中学の天神望の方がマシよ」
完全勝者の言葉で去って行った後ろ姿だけが脳裏に焼き付いている。
「メェーーーン!!!」
バチン! 物凄い豪快な音で我に返った。ワァァーーー!!! と反対側の客席から歓声が上がる。赤旗が綺麗に3本上がった。
「あぁぁ………」
私たちの陣営からは落胆の声が漏れる。大将の青木先輩が竹刀を握ったまま膝まで頭が落ちた。暁大学付属第三高校の桜宮左京に完璧なメンを決められた。負けた。今大会はベスト32止まり。総武学園高校はこの所ベスト16からも遠ざかっている。
総武学園高校
1勝3敗 本数2
先鋒 次鋒 中堅 副将 大将
八神 今里 藤咲 渡部 青木
引き コメ
分け ドメ メコ メメ
小野寺 森 塙 桜宮右京桜宮左京
先鋒 次鋒 中堅 副将 大将
暁大学付属第三高校
3勝1敗 本数6
4月。東京都高等学校春季剣道大会兼関東大会団体都予選。いわゆる関東大会出場を目指す都内高校の予選会だ。
「総学は去年の夏以降パッとせんな」
「四天王と呼ばれてた連中ですら勝てなかったんだ」
「ベスト16にも入れないんじゃあ厳しいよ」
「かつての古豪ももはや中堅以下か」
周りから聞こえる剣道狂(主におっさんたち)の声が耳に入る。私たちの陣営に気づいていないのか、無神経なだけか。3年生の村松先輩や半田先輩、西尾先輩はシュンと萎れてしまう。
「……なぁーんか言ったか? おっさんども!!!」
「あんま知ったかぶんなよな!!! あぁ???」
私の左右に座る2人の女子が我慢できず、悪鬼のごとく目が吊り上がり後ろを振り返る。
「「「「ひぃぃぃ!!!!」」」」
身に危険を感じたどこぞの剣道狂はそそくさとその場を立ち去った。
「……やめなよ。2人とも」
私はグイッと2人を前方向へと戻す。
「……ッチ! ったく」
「……フン」
2人は腕を組み足を組む。昔は強かった総武学園剣道部。これが今の私たちには重い。
「里佳子や奈緒美、早百合に頼りっぱなしで3年まできちゃったからなぁ……」
村松先輩が「はぁ」とため息をつき、半田先輩や西尾先輩も頭をワシャワシャと搔きむしる。
「そうですよ! 先輩方がもっとしっかりしてれば総武学園は強いんですよ!」
容赦なく先輩たちに発破をかけ、身振り手振りが活発で端正な顔立ち。ショートヘアーがよく似合うこの女。
「わかってるよ~。四日市~」
「ウチらじゃダメダメだってのはさ~」
「2年は7人全員強者だしねぇ」
「そうじゃありませんよ!」とアメとムチの使い方はまだまだ下手のようだ。
「……お前が出ればもう少しマシな陣容になるんだがな」
私の左に座る同級生がつぶやく。ブランクは乗り越えたつもりだし、過去の剣道へのトラウマも払拭した。
「なにか考えがあるんじゃないの。琴音先生にはさ」
おそらく、今の私なら他の高校ではまずレギュラー確定だ。だが琴音先生は頑なに私を試合で使わない。調子が上がってきたのが2年生になってからというのもあるだろうが。
「でも、それはありすも同じでしょ」
ありすと呼んだこの女もレギュラーであって不思議ではない。
「レギュラーの前に、まずはお前を倒すことからだ」
また藤咲みたいなこと言って。この部は主に数名が私を目の敵みたくする。2年生になってさすがに慣れたが四日市美静と相馬ありす。実力は折り紙付きで普通の高校ならレギュラー張っててもおかしくない。
「私らの代になってから総武学園のレベル落ちたね」
「去年の四天王の先輩に申し訳ない」
「今年も関東大会進出どころかベスト16も逃しちゃね」
「はぁ~~~」と村松先輩たちは再度深いため息をつく。
「せんぱーい! 総武学園って弱いんですね~。入部前に聞いてた琴音先生の話と違いますぅ~」
あざとい、ダルッとした声が斜めから聞こえた。私も少し気だるそうに仕方なく説明する。
「ふ~ん……。まぁ、今まで適当に剣道やってきた私には伝統とかよくわかりませんけどね~」
こいつは最近入部した(?)1年の松戸由加里。現在唯一の新入部員だ。まぁ、2年生になって、とりあえずはこの辺から話していきますか。
続く
