働きやすい職場なのに、成果が出ない理由|働きやすさを働きがいと組織成長につなげる必要性【院長Q&A】
解説|大谷 武史(トゥモロー&コンサルティング株式会社 代表)
編集|同社 広報部
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院長から寄せられたご質問にお答えする「院長Q&A」シリーズ。
今回は、次のようなご質問をいただきました。
▶ 働きやすい職場にしたのに、職場がより良くならないのはなぜでしょうか?
結論からお伝えすると、単純に「働きやすさ」だけを導入すると、職場は"ぬるく"なりやすく、かえって成長や品質の向上が止まってしまうことがあります。
大切なのは、なぜその制度を導入するのかという目的をはっきり伝えること、そして「指摘」と「注意」を分けて、言うべきことを言い合える文化をつくることです。
我々は、年間150件以上、クリニックへお伺いし、ワークショップなどを通じて職場づくりと事業成長のお手伝いをしています。
その中で、こうしたご相談を数多くいただいてきました。
今回は、そこで見えてきたことをお伝えします。
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「働きやすさ」は、本来マイナスをゼロにするだけの取り組み
年間休日を増やす、残業をなくす、風通しの良い職場にする。
こうした「働きやすさ」を掲げる一番の目的は、多くの場合、求人と離職防止にあります。
求人も離職防止も、突き詰めれば「人が辞めてしまったから、また募集する」というマイナスの状態から始まっていることが少なくありません。
そのため、年間休日120日、残業ゼロ、心理的安全性があり悪口もない、風通しの良い職場といった取り組みは、マイナスをゼロに近づける効果は確かにあります。
しかし、先生方が本当に望んでいるのは、その先ではないでしょうか。
トラブルがなくなれば、次は「自立して動いてほしい」「先回りして仕事をしてほしい」「ポジティブな姿勢で働いてほしい」という、ゼロをプラスにする部分を望むようになります。
このゼロからプラスの部分を考えずに、
「とりあえず年間休日を120日にしよう」
「とりあえず残業をゼロにしよう」
「とりあえず心理的安全性を高めよう」
という形で導入してしまうと、思わぬことが起きることがあります。
「楽をしたい」スタッフが集まりやすくなる
年間休日120日、残業ゼロという条件を大きく打ち出すと、正直なところ「なるべく楽をして働きたい」という動機のスタッフが集まってくる可能性があります。
もちろん、「仕事もしっかりやるので、その分の権利もいただきたい」と考える真面目な人もいます。
ただ、「条件が良い職場だな、これで仕事も楽なら最高だな」という基準で応募してくる人も一定数いるのが実情です。
こうした職場は、そもそも求人や離職防止に困っている、つまり人手不足であるケースが多いものです。
人手不足の中で応募が来ると、「たくさん応募が来た、良かった」と思って採用してしまいがちです。
「次にいつ応募が来るか分からない」という心理も働き、雰囲気が良く、ある程度コミュニケーションが取れるなら採用しておこう、となりやすいのです。
6人の職場に、こうしたスタッフが1〜2人加わるだけでも、全体の3分の1近くを占めることになります。
そして人員不足が解消されると、今度は「もっと良い医療を提供したい」と、次の段階を望むようになります。
ところが、その先を考えずに「とりあえず人が欲しい」という理由で採用してしまっていると、新しい取り組みをお願いした際に、反対勢力になってしまうことがあります。
「また新しいことをやるんですか」といった反応をしたり、積極的に反対しないまでも無関心を装ったり、「よし、やりましょう」という雰囲気をつくらなかったりします。
入職して最初の半年ほどは「頑張ります」と言っていても、職場に慣れてくると「別に今のままでいいんじゃないですか」と言い始めることがあります。
ポジティブなスタッフになるどころか、無関心なスタッフ、場合によっては変化に対する反対勢力になってしまう。
これが一つ目に起きやすいことです。
人を増やしても、生産性が下がることがある
年間休日を増やし、残業を減らすほど、シフト上「もう一人必要だ」ということが起こりやすくなります。
特にスタッフ数の少ないクリニックほど、その傾向が強く出ます。
もともと1人採用すれば足りると思っていたところが、年間休日を120日に増やしたことで、「1.5人分くらい採用しないと回らない」という状態になることがあります。
そこで1.5人分増員したとしても、その分だけ患者さんを多く診られるわけではありません。
単純に人件費だけが増えて終わってしまう可能性があります。
新しく入った人が「私はすごく頑張ります」というタイプであれば、生産性が上がる可能性もあります。
しかし「ほどほどでいいです」「言われたことだけやります」という人ばかりであれば、増員しても生産性は上がりません。
さらに、新しいスタッフを教育する既存スタッフの時間も必要になります。
結果として、人を増やしたにもかかわらず教育担当者の生産性まで下がり、「一応職場は回っているけれど、よく計算したら人件費が一人分余計にかかっている」という状況が起こることがあります。
「心理的安全性」の誤解が、職場を"ぬるく"する
ここ数年で、「心理的安全性」という言葉はかなり一般的になってきました。
悪口を言わない、ネガティブな発言をしない、相手が怖がるようなことをしない。もちろん大切なことです。
ところが、心理的安全性についての研修などでは、「悪口を言わないことです」「相手が怖がることはしないことです」という部分だけが強調されるケースがあります。
その結果、言うべきことまで言わなくなってしまう。つまり、"ぬるい職場"になっていきます。
ぬるい職場では、指摘をしません。
「それ、間違っているよ」と言ったら泣かれるかもしれない、辞められるかもしれない。
そう考えて何も言えなくなります。
提出期限を守らなくても、「もう少し頑張って出してね」と上司が部下の機嫌を取る。
本来考えると、おかしな話です。
しかし、「今はそういう時代だから」と、どんどん職場がぬるくなっていくことがあります。
指摘をしない職場では、成長が遅くなります。
10回に3回間違っていても、「7回できているからいいか」となってしまえば、品質はそれ以上上がりません。
「何も言われないから、このままで大丈夫なんだろう」と、スタッフが思ってしまうのです。
結果として、何が起きるか
こうしたことが積み重なると、大きく2つのことが起こります。
一つは、「品質と患者数が上がらない」ということです。
患者数を増やし、事業を成長させることは経営の大きな目的の一つですが、「職場のトラブルは減った。でも品質が上がっている感じがしない。患者数も増えていない。売上は上がっているのに利益が増えていない」ということが起こる可能性があります。
そしてもう一つ、私が経営上もっとも大きなリスクだと感じているのが、「良いスタッフが辞める」ということです。
今は、スタッフ同士の仲が良く、風通しの良いクリニックが増えています。経営についてしっかり考えて取り組んでいる先生のクリニックでは、それ自体はある意味当たり前になりつつあります。
ところが、優秀なスタッフほど、3年ほど勤務した頃に辞めてしまうケースがあります。
「せっかく優秀だったのに、なぜ辞めるんだろう」
「リーダーとして中心になってくれていたのに」
ということが起きます。
理由の一つは、「この職場ではこれ以上の成長が見いだせない」からです。
つまり、働きやすくても、"働きがい"がなければ、優秀なスタッフは離れていく可能性があります。
コアメンバーがいなくなれば、品質を上げ切ることも難しくなります。
それでもトラブルは少ないため、「うちの職場はまあまあ良いから」と見過ごしてしまう。
過去にスタッフ間のトラブルや離職に悩んだ経験が強いほど、この現状維持を選びやすくなりますが、これ自体が、気づかないうちに組織の伸びしろを失わせている可能性があります。
どうすればいいのか|目的を伝える、指摘と注意を分ける
「働きやすさ」の先に必要なのが、"働きがい"という視点です。
それをつくるために、意識したいことが2つあります。
一つ目は、制度を導入する目的と狙いを、はっきりと言葉にして伝えることです。
なぜ年間休日を120日にするのか、なぜ残業ゼロを目指すのか、なぜ心理的安全性を高めるのか。
ここを伝えずに条件だけを提示すると、権利だけが先に立ってしまいます。
「みんなが気持ちよく休める環境をつくりたい。プライベートを充実させてほしい。そのうえで、良いコンディションで仕事に取り組み、高いパフォーマンスを発揮してほしい」。
そうした思いまで含めて伝えることが大切です。
つまり、権利と義務の話をきちんとするということです。
良い制度という権利を得るためには、品質の高い仕事をするという義務も果たしてほしい。
この考え方を、「交換条件のようでいやらしい」と感じる先生もいるかもしれませんが、法律に守られる権利と、法律を守る義務がセットであるのと同じことです。
当たり前ですが、
「仕事をしっかりしてください。休みはありません」では嫌ですし、「休みはたくさんあります。仕事も無理に頑張らなくていいですよ」もおかしな話です。
その両方が必要なのです。
二つ目は、「指摘」と「注意」を分けて、職場文化として根づかせることです。
指摘とは、やっていることが違っているときに、「違うよ」と教えてあげることです。
靴を反対に履いているよ、と伝えるようなもので、怒る必要はありません。心理的安全性のある伝え方で、「そこ、違うよ」と伝えるだけでいいのです。
注意とは、一度伝えたことやルールとして決まっていることが守れていないときに、「守れていないよ」と伝えることです。
ここで重要なのは、なぜ守る必要があるのかという目的まで伝えることです。
「守らないと事故が起きるから」「規律が崩れてしまうから」。
規律が崩れると人それぞれの判断になり、生産性が下がります。
公平性がなくなれば不満が生まれ、チームワークや協力性も失われてしまいます。
指摘は「違うよ」、注意は「守れていないよ」。
この二つを分け、心理的安全性を保ちながら目的まで伝えていくことで、「優しいけれど、言うべきことはきちんと指摘してくれる職場だから安心できる」という状態がつくれます。
まとめ
「働きやすい職場にしたのに、良くならない」と感じたときに意識したいのは、次の2点です。
1.制度を導入する目的と狙いを、権利と義務のセットとして言葉にして伝える
2.「指摘」と「注意」を分けて使い、言うべきことを言い合える文化をつくる
働きやすい職場は、ゴールではありません。
働きやすい職場だからこそ、その先に働きがいのある職場をつくっていく。
そこまでを見据えることが大切なのだと思います。
最後に確認|働きやすく、かつ成長できる職場づくりのQ&A
Q.年間休日や残業ゼロといった制度は、取り入れない方がいいということでしょうか?
制度そのものに問題があるわけではありません。
問題は、目的を伝えずに条件だけを打ち出してしまうことにあります。
同じ制度でも、目的をきちんと伝えたうえで導入すれば、意図しない事態は起きにくくなります。
Q.心理的安全性を大切にしながら、指摘や注意をするにはどうすればいいですか?
「なぜそれを伝える必要があるのか」という理由をあわせて伝えることがポイントです。
規律や公平性が保たれることで、結果的にチーム全体が安心して働けるようになる。
そこまで伝えることで、心理的安全性を損なわずに指摘や注意ができます。
Q.すでに「良いスタッフが辞めていく」状態です。今からでも対処できますか?
今からでも、できることはあります。
まず、今いるスタッフに対して、これまで伝えていなかった制度の目的を、あらためて言葉にして伝えることから始めてみてください。
あわせて、「指摘」と「注意」を分けて伝える文化を少しずつ根づかせていくことで、"ぬるさ"は少しずつ変わっていくはずです。
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解説者
大谷 武史(おおたに たけし)
トゥモロー&コンサルティング株式会社 代表/医療経営専門コンサルタント
上場企業の経営企画室の経験を経て、 2008年の創業以来、診療所および歯科医院の集患、人財育成、組織づくりに特化して支援。
2021年まで大学講師としてゼミを担当し、チームビルディングを研究。 現在は年間150件以上のワークショップに登壇し、累計10,000人以上への研修実績を持つ。
※年間登壇回数および累計研修人数は、トゥモロー&コンサルティング株式会社による集計です。
本記事について
本記事は、大谷武史による動画解説と、クリニックでのコンサルティング、研修、ワークショップを通じて得た現場経験をもとに、同社広報部が構成・執筆しています。
記事中の事例は、個人や医療機関が特定されないよう、趣旨を変えない範囲で一部の情報を省略・整理しています。
