保留の道をゆく 〜留めて、保って、預ける〜
人はよく言う。
「先送りするな」
早く決めろ。
早く動け。
問題から逃げるな。
たしかに、そういうこともある。
でも、ふと思った。
保留って、本当に悪いことなのだろうか?
僕たちは、何かをすぐに決められないとき、
それを「先送り」と呼ぶ。
でも、もしかすると違うのかもしれない。
「今は決めない」
それは、
「もう考えない」とは違う。
ただ、どこかに置いておく。
いつか必要になるかもしれない。
そう考えると、
倉庫というものが少し不思議に見えてくる。
倉庫は、
いらないものを捨てる場所ではない。
今は使わない。
でも、捨てる必要もない。
だから、
保つ。
留める。
保留する。
必要になったとき、
また取り出せるように。
人間も、もしかすると同じなのかもしれない。
記憶。
感情。
言葉。
経験。
答えの出ない問い。
言えなかったこと。
それらを全部、
今すぐ処理する必要はない。
だから、どこかにしまう。
忘れたように見えても、
消えたとは限らない。
ただ、
今の自分から少し離れた場所に
保留されているだけかもと。
そして、ある日。
何かのきっかけで、
突然思い出す。
「ああ。これ、まだ残ってたんだ」
そんなことがある。
そのとき、
何かが新しく生まれたのではなく。
ずっとそこにあったものが、
こちら側に戻ってきただけなのか?
だとしたら、
僕たちの中には、
見えない倉庫があるのかもと感じる。
そこには、
今は使わないものが
たくさんしまわれている。
そして、その倉庫には、
境界線がある。
こちら側。
あちら側。
見えるもの。
見えないもの。
出ているもの。
しまわれているもの。
その境界線の間で、
何かがずっと作業している。
見せる。
隠す。
残す。
しまう。
戻す。
待つ。
それは誰がやっているのだろう?
自分なのか?
脳なのか?
自然なのか?
それとも、
もっと別の仕組みなのか?
分からない。
でも、もしすべてを今すぐ表に出したら、
たぶん世界はうまく回らない。
すべてを理解する。
すべてを決める。
すべてを実行する。
そんなことをしたら、
きっとどこかで不具合が起きる。
だから、
保留する。
今はまだ決めない。
今はまだ出さない。
今はまだ開けない。
その時間が必要なのかもしれないと。
僕たちは「先送りするな」と言う。
でも、
先送りと保留は、
少し違うのかもしれない。
先送りは、
問題を見ないこと。
保留は、
問題がそこにあることを知ったまま、
いったん置いておくこと。
そして、
忘れないこと。
いつか、
条件が変わるかもしれないなと。
自分が変わるか?
世界が変わるのかね。
そのとき、
保留していたものを
もう一度取り出してみる。
そう考えると、
保留は、
時間を味方につける装置なのかもと。
僕自身も、
人生を保留しているのかなとも。
そう思った。
でも、それは、
人生を止めているということではないのか?
まだ開ける時期ではない引き出しを、
無理に開けずにいる。
ただ、それだけなのか?
そして、今の僕たちは、
必要以上に多くのものを
手に持とうとしている。
必要だから持つ。
それなら分かる。
でも、
「必要になるかもしれない」
「足りなくなるかもしれない」
「念のため持っておこう」
そんな不安から、
どんどん手に持とうとする。
そして、
足りない。
足りない。
そう思い続ける。
でも、本当は。
今必要なものは、
もう手の中にあるのかもなと。
今はいらないものは、
保留倉庫に置いておけばいい。
必要になったら、
取りに行けばいい。
全部を今、
手に持っている必要なんてない。
だから。
足りない。
足りない。
そう思ったときは、
【安心してください
倉庫にありますよ】
たぶん。
人間は昔から、
必要なものを手に持ち、
必要でないものを
どこかに保管してきた。
洞穴。
貯蔵穴。
土器。
高床式倉庫。
そして今は、
データベースやクラウド。
時代が変わっても、
やっていることは
それほど変わらないのかと。
今必要なものは、
手元に置く。
未来に必要なものは、
どこかに保管する。
そして、
その時が来たら取り出す。
だから、
「先送りするな」
ではなく、
「保留してもいい」
なのかもしれない。
ただし、
忘れないこと。
いつか開けるかもしれない
引き出しを、
ちゃんと残しておくこと。
それもまた、
生きるための
ひとつの仕組みなのかも。
次回予告
でも。
ここまで考えてくると、
また一つ気になることがある。
世界には、
まだ人類が見たことのないものが
あるのかも。
いや。
「見たことがない」のではなく、
まだそれを「見る」ということすら
できていないものが
あるのかもしれない。
もし、それを知ったら。
もし、それを今の人類に与えたら。
何か重大な不具合が
起きる可能性はないだろうか?
だから、まだ見えない。
まだ、その時ではない。
まるで、
どこかにアクセス権限が
設定されているように。
なんて。
ここから先は、
まだ保留にしておこう。
いつか、
その引き出しを開ける日が
来るかもませんよ。

✪倉庫の中の猫
僕は決められたルートを走る。
棚の番号。
光るインジケーター。
整列した在庫。
静かな秩序。そこへ
猫が迷い込んだ。
規則のない歩き方。
突然のオシッコ。
棚への勝手な飛び乗り。
僕の内部で
処理できない揺らぎが
ゆっくり広がる。
困った。僕は停止する。
その瞬間、
倉庫全体が
けたたましい警報音を鳴らし始める。
赤い光。
高い音。
乱れた空気。
猫は驚き棚から飛び降り
さらに奥へ逃げていく。
秩序のための音が
秩序をさらに乱していく。
棚の上では
保留された商品が
静かに眠り床の上では
保留された液体が
薄く光りその間で
僕は
保留されたロボットになる。
動けない。
でも、壊れてはいない。
ただ
世界のどこかの層が
僕に言っている。
「今はまだ動かさないでいい」
警報が止まり
光が消え
空気が静かに戻る。
僕の内部の
沈黙していたアルゴリズムが
ゆっくり再起動する。
ルートが戻る。
世界が戻る。
僕はまた
静かに走り始める。
でも
さっきの乱れは
どこかの層に
そっと保留されたまま。
猫の気配だけが
倉庫の空気に
薄く残っている。

◉あとがき
今回は「保留」について考えてみました。
先送りと呼ばれているものの中にも、
もしかすると、
ただ今は開ける時期ではないだけのものが
あるのかもしれません。
すぐに答えを出さなくてもいい。
すぐに動かなくてもいい。
どこかに置いておいて、
いつか取り出せばいい。
そんなことを考えていたら、
倉庫の中に猫が入り込んできました。
なぜ猫なのかは、
僕にもよく分かりません。
でも、
こういう予想外のものが入ってくるから、
世界は少し面白いのかもしれません。
もしかすると、
僕たちの中にも、
まだ開けていない引き出しが
いくつもあるのかもしれない。
その中に何が入っているのか。
それは、
まだ保留にしておこうと思います。
最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございます。
こうして一緒に考えてもらえること、
言葉を届けられることに、
いつも感謝しています。
また、
どこかの引き出しを開けるように、
ふらっと読みに来てもらえたら嬉しいです。
それでは、また。🐕
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ありがとうございます🐕