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「空」は、無いふりが上手い 〜視えない「空」を探して〜

はじめに

空っぽ、と誰かが言うとき、
その人はもう、空っぽじゃない。

「空っぽだ」と気づくためには、
そこに、
気づく何かが、
座っていないといけない。
本当に何もなければ、
無いことにすら気づけない。

だから、
空っぽという言葉は、
いつも自分自身を裏切っている。

無いと言った瞬間、
そこにはもう、
無いと言うための、
何かが詰まっている。

空虚が、詰まってる。

胸の奥、
押しても、
押しても、
底が来ない。

指を入れれば、
指ごと呑まれる。

矛盾しているようで、
これがいちばん正確な気がする。

空気だって、
圧縮すれば重くなる。

無だって、
濃度を上げれば質量になる。

空っぽは、
からっぽの顔をした満杯なのだ。

仏教でいう「空」は、
本当は、
無ではないという話を聞いたことがある。

何かと何かの間、
固定された実体がないという意味での空。

だとすれば、
詰まっているのは物ではなく、
関係とか、
揺らぎとか、
まだ、
名前のついていない気配のような。

けれど厄介なのは、
「空」はそれを、
まったく見せないということだ。

そう、
空虚自体は、恐怖を見せない。

沼なら、まだいい。
もがけば沈む、
水面が揺れる、
危険だと伝えてくる素振りがある。

でも空虚は、
もがいても、
じっとしていても、
何も返してこない。

危険の合図すら鳴らさない。

怖がらせようとすらしない。

ただ、
無言で、そこに在るだけ。

沼は
「怖い」とわかっていて踏み込むから、
まだ心の準備がある。

空虚は、
怖くないと思っているうちに、
もう深いところにいる。

昔の空虚は、沼だった。

今の空虚は、霧だ。

沼は掴めば形が残る。
長靴が抜けない、
あの独特の重さ。

もがくほど絡みついてきて、
逆説的に「私はここにある」と教えてくれる。

実在を、
抵抗というかたちで主張してくる。

でも今の空虚は、
つかもうとした瞬間に、
逃げる。

手を伸ばした分だけ、
後ろに下がる。

追いかけると、
追いかけた分だけ遠ざかる。

つかもうとしないと、そこにいる。
つかもうとすると、いなくなる。

たぶん、
対象として扱おうとするから起きることだ。

空虚を、
掴める物だと思って手を伸ばす。

でも空虚はそもそも物ではなく、
何かが、
足りない、という関係そのものだから、
対象化しようとした、
瞬間に、
対象がいなくなる。

影を踏もうとして、
踏んだ瞬間に、
自分が、
その影を消してしまうのに近い。

だから今、
空虚を、
感じている人が多いのだと思う。

埋めても埋めても、
なぜか減らない。

摂取している実感がないまま、
脳、目、指、だけが忙しく動き続ける。

広く、
薄く、
しかし大量に、詰まっている。

密度は低いのに、総量は多い。
満たされた手応えのないまま、
なぜかずっしり重い。

沼より、たちが悪い。

沼は最低限、
自分が沈んでいることを教えてくれる。

霧は、
沈んでいることにすら気づかせない。

密度が上がりすぎると、
光さえ出さなくなる場所がある。

何も逃さない、
何の情報も漏らさない。

ただそこに、ある。

それでも、部屋の隅を思い出す。

誰も掃除しない、家具の裏。

埃は、
毎日積もる。

押し固められて、
綿のように、
重くなっていく。

何年も、
誰も触れない。

なのに、
久しぶりに覗くと、
思ったより、
薄い。

積もった分より、
逃げた分の方が、多かった。

風も入らない、
光も届かない場所なのに。

消えないはずのものが、
いつのまにか、
跡形もなくなっている。

読むという行為も、
たぶん同じ構造をしている。

答えを渡されないと、
脳は勝手に空白を埋めようとする。

埋める材料は、
自分の記憶や感情しかない。

だから読んでいるつもりが、
気づけば自分の内側を覗いている。

歩いて連れて行かれるのではない。

沈んで、
気づいたら、
もう違う場所に立っている。

境界線が引かれていないから、
越えたことにすら気づかない。

素振りを見せないこと。

それ自体が、
実は最大の素振りだったりする。

「私は無です」と、
空は一度も言葉にしないまま、
完璧に演じ続けている。

無いふりが、
いちばん上手い。

だから人は、
油断して近づく。

怖くないと思って、
覗きこむ。

そして、
いつのまにか、
もう底が見えないところまで来ている。

空っぽ、
と誰かが言うとき。

その人の中では、
もう何かが動き出している。


*あとがき、のようなもの

ここまで「空」について、

えらそうに、いろいろ書いた。

正直に言うと、

わたしは、埃、高い人間だ。

埃レベル、高い。

毎年、更新している。

なのに、なぜか、

ほっこりしてる。

ルーローハンは、美味しかった。

【ありがとう】という誇りを胸に🐕。




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水豊 ありがとうございます🐕