山内さん伝説
山内さんは、わたしの歳上の部下だ。六十五歳。
いまは腹も声も立派にふくらんでいるが、昔の写真には驚くほど痩せた姿が残っている。
「ほんまに俺か?」と笑いながら見せてくれるのが、いかにも山内さんらしい。
その経歴は派手だ。
アップル社の最終面接まで進んだことがあるという。
「せやけど英語が話せへんでな。あれで落ちたんや」
そう話すときの山内さんは、悔しそうというより、どこか楽しそうだ。
大きな舞台に立った経験すら、笑い話に変えてしまう。
かつては五千人の部下を率いる事業部長でもあった。
海外を飛び回り、ヨーロッパでは有名なF1レーサーと友人になった。
その写真を見せてくれたとき、肩を組んで笑う姿に不思議と納得した。
山内さんなら、どこで誰とでも打ち解けてしまうのだろう。
家庭の話になると、声が少し落ち着く。
最初の妻はレースクイーンで、娘がひとりいる。
だが離婚し、のちに妻は病で亡くなった。
今の奥さんとは、毎年欠かさず墓参りに行くという。
「娘はええ奴なんやけどな」
そう言いながら、どこか距離を感じているようだ。
連絡があるのはたいてい金の話で、
「ほんま、俺にばっかりやわ」とぼやきながら、結局どこか嬉しそうに笑っている。
一度、娘が小さなタトゥーを入れたときはショックを受けたそうだ。
「せめて入れる前に、一言言うてほしかったな」
その言葉には父親としての寂しさがにじんでいた。
そんな話を聞きながら、わたしは自分のことを思った。
――わたしにも、親子ほど歳の離れた彼女がいる。
彼女からの連絡も、たいていはお願いごとばかりだ。
口では文句を言いながら、結局は悪い気がしない。
山内さんと娘さんの関係と、どこか似ている気がした。
豪快な経歴を持ちながら、どこか抜けていて、人を和ませる。
ぼやきながらも笑顔を絶やさない。
だから山内さんは、周りから愛され続けているのだと思う。
