【恋愛小説】LOVE SONG#6『Tomorrow never knows~Mr.Children~』1995年初秋/夜
夜の10時を少し過ぎたころ。
子どもたちを寝かせて、ようやく静かになった家の中。
リビングの片隅に置いていた車の鍵を、そっとポケットに入れた。
テレビは消して、明かりも最小限に落とした。
夫は今夜も夜勤。
子どもたちはぐっすり眠っている。
私は、またあの道を走っていた。
この一週間、毎晩のように浩人の家の前まで車を走らせている。
最初はほんの少し話したくて、顔が見たくて。
でも気づけば、浩人の姿を見ないと眠れなくなっていた。
玄関の前に立つと、いつものように浩人が姿を見せた。
Tシャツにジャージ、寝癖のついた髪。それでも、私の目にはその姿が愛しく映る。
「今日もありがとう」
助手席に乗り込んだ浩人が、小さく微笑む。
その笑顔だけで、胸が少しだけ苦しくなる。
「少し、ドライブしない?」
「うん」
車を出して、人気のないバイパスに出る。
窓を少しだけ開けると、夜風が頬を撫でた。
ラジオからは、メロディが流れていた。
ミスチルの「Tomorrow never knows」。
まるで、今の私たちに寄り添ってくれているようだった。
しばらく無言のまま車を走らせ、私は自然とハンドルをある方向へ切っていた。
浩人が何も言わずに、窓の外を見つめていた。
その視線の先に、静かに灯るラブホテルのネオンがあった。
部屋に入ったとき、少しだけ手が震えていた。
でも、それは怖さじゃない。
——これは、きっともう戻れない、と思ったから。
「・・・ごめんね、私、こういうの初めてで」
「無理しなくていいよ」
「ううん、違うの。・・・怖いんじゃなくて、嬉しいの」
そう言った自分の声が、少し震えていた。
こんな気持ちになったのは、何年ぶりだろう。
誰かに触れたいと思ったこと。
触れてほしいと思ったこと。
それを言葉にできたこと。
浩人は黙って、私の髪をそっと撫でてくれた。
その手の優しさに、私は自然と彼の胸に身を預けた。
キスは静かで、ゆっくりだった。
何度も、何度も、触れ合って、確かめ合った。
愛されている、という実感が、じんわりと胸に広がっていく。
「・・・こんな夜が、ずっと続けばいいのに」
そう思ったのは、たぶん私だけじゃなかった。
シーツの中で横に並んで、私は天井を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「・・・これでよかったのかな」
「後悔してる?」
「してない。でも、明日が少し怖い」
浩人は何も言わず、私の手をそっと握ってくれた。
その温もりに、また涙が出そうになる。
「どうして、こんなに浩人に惹かれたんだろう」
「なんで、毎晩のように会いたくなったんだろう」
——その理由は、まだわからない。
でも、きっといつか分かる日が来る。
それが「愛」だったと、胸を張って言える日が。
そのときに私は、自分を許せるのかもしれない。
窓の外はまだ夜だったけれど、私たちの心の中では、すでに朝が近づいていた。
