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「64年間生きてわかった。社長より、営業マンでいたかった。」

第1章 成功者だと思っていた20代。


64年間生きてきて、ようやくわかったことがある。

人生で本当に失うと苦しいものは、お金ではなかった。

若い頃の私は、そのことにまったく気づいていなかった。

営業マンとして結果を出し始めると、目に見えて人生が変わっていった。

憧れていたポルシェ911カレラに乗り、腕にはロレックスをつける。

大切な女性にはエルメスを贈ることができた。

周りから見れば、「成功者」と呼ばれる人生だったと思う。

契約を取り続け、数字を積み重ねるたびに、自分には勢いがあった。

営業という仕事が楽しくて仕方がなかった。

努力した分だけ結果が返ってくる。

昨日より今日、今日より明日と、自分が成長していることを実感できた。

そんなある日、私は一人の女性と出会う。

その人は、毎月1億円を売り上げる会社を経営する社長の娘だった。

結婚を機に、私の人生は大きく変わる。広い豪邸。高級車が並ぶガレージ。

毎日のように会社の幹部や社員が集まり、夕方5時になると宴会が始まる。

テーブルには高級ワインや高級ウイスキーが並び、料理も一流だった。

宴会が終わると、自宅には迎えの小型バスがやって来る。

そこから向かうのは高級クラブ。

それが、その家では当たり前の日常だった。

私は、それまで見たことのない世界を見ていた。

「これが本当のお金持ちの暮らしか。」

最初はただ驚きの連続だった。何ひとつ不自由がない生活。

誰もが羨むような環境。

きっと多くの人は、「そんな人生なら幸せだろう」と思うだろう。

私自身も、その頃はそう思っていた。「ここまで来たんだ。」

「人生はもう成功した。」そう信じて疑わなかった。

しかし、その華やかな生活の中で、少しずつ胸の奥に言葉にできない違和感が芽生え始めていた。

その違和感の正体に気づくまで、私はまた何年もの時間を必要とすることになる。

第2章 豪邸で気づいた、本当に欲しかったもの

豪邸での生活にも少しずつ慣れ始めた頃、義母から何度も同じ言葉を掛けられるようになった。
「あなたが会社を継いだらいいじゃない。」

世間から見れば、願ってもない話だった。毎月1億円を売り上げる会社。

すでに築き上げられた事業。
経済的な不安などない人生。

普通なら誰もが飛びつく話だろう。「営業で苦労しなくてもいい。」「社長になれば安定する。」
そんな言葉を掛けられるたびに、私は笑顔で聞き流していた。
しかし、心の中では何かが引っ掛かっていた。

私は社長になりたかったわけではない。営業マンでいたかったのだ。

玄関のチャイムを押し、断られ、もう一度話を聞いてもらい、お客様との会話の中から信頼を積み重ね、最後に「あなたから買うよ」と言っていただける。

あの瞬間の喜びは、お金では買えない。契約書にサインをいただいた時の震えるような達成感。

努力がそのまま結果になる世界。私は、その世界が好きだった。

だから、どれほど立派な会社でも、自分の力で勝ち取ったものではないと感じてしまった。
もちろん、義母に悪気はなかった。家族として、将来を考えてくれていたのだと思う。

けれど、その優しさが、少しずつ私を苦しめていった。

「なぜ会社を継がないの?」
「どうして営業なんか続けるの?」

その言葉を聞くたびに、私は自分の生き方を否定されているような気持ちになった。家族として期待される役割。自分が本当に生きたい人生。

その二つの間で、心は少しずつ離れていった。豪邸に住み、何不自由ない生活を送っているはずなのに、私の心は満たされなかった。

今ならわかる。
私は、お金や地位を求めて営業をしていたのではない。

「自分の力で人生を切り拓いている」その実感が欲しかったのだ。

その違いに気づいた時には、家族との価値観の溝は、もう簡単には埋められないほど深くなっていた。

第3章 すべてを失って、ようやく自由になれた。


結婚生活は、少しずつ終わりへ向かっていった。原因は、お金ではない。誰かが悪かったわけでもない。ただ、お互いが見ている「幸せ」の形が違っていたのだ。

妻は、私が会社を継ぎ、社長として生きる未来を望んでいた。
私は、営業マンとして、自分の足で歩き続ける人生を望んでいた。

その距離は、時間とともに広がっていった。そして、離婚。
ひとり娘との別れは、ほんとうに辛かった。世間から見れば、私は多くのものを失った人間だった。

豪邸での暮らし。ポルシェ911カレラ。ロレックス。何不自由ない生活。社長一族という肩書き。
誰もが羨む環境。可愛い一人娘。

そのすべてが、一度に私の人生から消えていった。
当時は、正直つらかった。
「これで良かったのだろうか。」
そんな問いを、何度も自分に投げかけた。しかし、不思議なことが起きた。

営業の仕事に戻ると、胸が高鳴った。朝、お客様の家へ向かう車の中。玄関のチャイムを押す瞬間。契約が決まった時の喜び。
「ああ、これが自分なんだ。」
久しぶりに、自分の心が笑っているのを感じた。

誰かが用意してくれた人生ではなく、自分で切り拓く人生。
たった一件の契約でも、自分の力で勝ち取った成果は、豪邸で過ごした一日より何倍も嬉しかった。その時、私は初めて気づいた。

人は、お金があるから幸せなのではない。高級車に乗ることでもない。ブランド品を身につけることでもない。「自分らしく生きている」と胸を張って言える毎日こそが、本当の豊かさだった。
私は多くのものを失った。

けれど、本当に失ってはいけないものだけは、取り戻すことができた。それは、営業マンとして生きる誇りだった。

第4章 64年間生きてわかった。お金より先に失ったもの。


64年間の人生を振り返ると、私は本当にたくさんのものを手に入れてきた。

ポルシェ911カレラ。
ロレックス。
高級ブランド。
豪邸での暮らし。
毎月1億円を売り上げる会社を経営する義父。夕方5時から始まる豪華な宴会。高級ワインに高級ウイスキー。宴会が終われば、小型バスで街へ繰り出し、高級クラブで夜を過ごす。

そんな世界を、私は確かに生きた。あの頃は、それが「成功」だと思っていた。でも、64年間生きてきた今、あの頃の自分に一つだけ伝えたいことがある。
「本当に大切なのは、何を持っているかじゃない。」
「何を創り出しているかだ。」
人から与えられた豊かさは、いつか終わる。環境も変わる。
肩書きも変わる。財産もなくなるかもしれない。けれど、自分の力で積み重ねてきた経験は、誰にも奪われない。

私は40年以上、営業という仕事に人生を懸けてきた。

何千件、何万件という玄関のチャイムを押し続けた。

断られても、また次の家へ向かった。契約が取れず、車の中で悔し涙を流した日もある。

それでも営業を辞めたいと思わなかった。なぜなら、営業は私に「生きる喜び」を教えてくれたからだ。

今はAIと企画構成案を考え、
人型ロボットが働く時代になった。だからこそ、人間にしか価値のないものがある。それは、人生経験だ。成功した日も、失敗した日も、離婚した日も、笑った日も、泣いた日も。そのすべてが、今こうして誰かの背中を押す言葉になっている。

もし、あの頃の私が会社を継ぎ、何不自由ない人生を選んでいたら、今この記事を書くことはなかっただろう。遠回りだったかもしれない。

失ったものも数え切れない。
それでも私は、自分の人生を歩いてきて本当に良かったと思っている。64年間生きてわかった。

人生で失ってはいけないものは、お金ではない。

**「自分らしく生きる勇気」**だ。その勇気がある限り、人は何歳からでも人生をやり直せる。そして私は今日も、新しい一日を、自分の足で歩いていく。

おわりに

この記事を書きながら、私は何度も過去の自分を思い出しました。

ポルシェ911カレラに乗っていた頃の自分。

ロレックスを身につけていた頃の自分。

豪邸で毎日のように宴会をしていた頃の自分。

あの頃の私は、「成功」とは手に入れるものだと思っていました。

でも64年という時間は、その考えを静かに変えてくれました。

人生は、何を持っているかを競うものではありません。

何を手放し、何を選んで生きたか。

その積み重ねが、その人だけの
人生になるのだと思います。

私は社長になる道ではなく、営業マンとして生きる道を選びました。

決して楽な道ではありませんでした。

何度も断られ、何度も挫折し、
人生には離婚や失敗もありました。

それでも一度も、「営業マンで良かった」と思えなくなった日はありません。それは、営業という仕事が、私に「人と向き合うことの喜び」を教えてくれたからです。

もし今、この記事を読んでいるあなたが、人生の分かれ道に立っているなら、一つだけ伝えたいことがあります。

周りが決めた「正解」を選ばなくてもいい。

肩書きや収入だけで、自分の人生を決めなくてもいい。

最後に振り返った時、「あれが私の人生だった。」

そう笑える道なら、それがあなたにとっての正解です。

私も、まだ人生の途中です。
これからも営業マンとして、人と出会い、学び、失敗し、そしてまた書き続けます。64年間生きてきて思うのです。

人生は、勝ち負けではない。
自分の人生を最後まで生き切った人が、一番幸せなのだと。          
                                                         written by mooko

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