魔物は文鳥
「我が名はクロノグラフィア!!!」
眩い光が収まると、魔法陣の中にちょこんと小鳥がいた。
桜文鳥だった。
キリッと黒い頭を上げていた。
小さな右の羽根を広げる。
「その名を聞くと世界は震え上がり、姿を見ると終わりを覚悟する……」
「終焉の魔……!」
「うん」
「桜文鳥」
「さ……文鳥?」
クロノグラフィアは思わず足元を見た。
真っ白なふわふわのお腹の羽毛。
ピンク色が可愛らしい細い足。
「バカな!!」
一歩踏み出した。
てんっ。
両足が同時に跳ねた。
もう一歩。
てん。
「勝手に出るとビリビリするぞ?」
魔法使いが声をかける。
「まだ 仕掛けを解いてないからな」
肩まで伸びた銀色の髪。
二重の銀色の瞳。
薄い唇。
淡いブルーのローブと細い白い杖。
クロノグラフィアはほけっと魔法使いを見た。
若い……。
何故、我を召喚できた?
「わ…我が名はクロノグラフィア」
さっきより勢いがなくなる。
「クロかな」
表情を変えずに淡々と魔法使いが言った。
「水浴びする?」
その言葉を聞いた途端。
身体の奥からブルッと込み上げるものが来た。
羽根が震える。
羽根の震えは全身に広がった。
水浴び!!!!
初めて聞いたのに魂が揺さぶられた。
ちゃぷん。
脳裏に水の音が響く。
冷たい水に浸かりたい。
思い切り羽根を震わせ、飛沫を飛ばし、心ゆくまでブルブルしたい!!
クロノグラフィアはこほん、と咳払いをした。
「水浴びとは?」
知っている。
しかし。
飛びつくにはプライドが高すぎた。
魔法使いはフッと口元を緩めると、部屋の奥に消えた。
何か……瓶だろうか。
水を汲み上げる音が聞こえてくる。
クロノグラフィアは待ちきれず、もう一歩踏み出した。
ビリビリ!
い……痛い!!
上に飛び上がる。
ビリビリ!
また衝撃が走った。
反射でまた飛ぶ。
当たる。
痛い!!
魔法陣の中でパニックになっていると
「あ、暴れてる」
魔法使いが帰ってきた。
「言ったのに。ビリビリするって」
小さな白いお皿を持っている。
その中に、水。
「解くよ」
魔法使いがお皿を床に置いて、右手を上げた。
杖を持っている。
軽く振るとビリビリが消えたのが分かった。
クロノグラフィアは水を見た。
早く!
あのお皿の中へ!!
しかし。
身体が重い。
尻もちをついたクロノグラフィアを見て、魔法使いは小さく笑った。
「クロ」
笑いながら続ける。
「終焉の魔鳥」
「水浴びはお預けかな」
温かい手のひらに包まれた。
頭と首の間の匂いを嗅がれる。
なんという不敬!!!
クロノグラフィアは憤慨した。
我は!!
「文鳥って本当に小さいな」
我が名はクロノグラフィア。
伝説の終焉の魔鳥!!
本日。
桜文鳥になった。

