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静けさを設計した建築家ミノル・ヤマサキという祈り……SD選書『現代建築十二章』(1965)の覚書

ダークアカデミア図書館へようこそ。
わたくしは館長の藤本冬蘭でございます。

本日お手に取りますのは、『現代建築十二章』。
1960年代、名だたる建築家たちが静かに言葉を寄せた一冊でございます。

バックミンスター・フラー、ルイス・カーン……その名を目にするだけでも胸が高鳴りますけれど、

けれど、わたくしがそっと頁を留めましたのは、
ミノル・ヤマサキの一篇。

ただ、それに尽きるのです。

ミノル・ヤマサキ。
ニューヨークの世界貿易センタービル……あのツインタワーを設計した建築家、と申し上げれば、思い出していただけますでしょうか。

あるいは、セントルイスの集合住宅〈プルーイット・アイゴー〉。
理想として生まれながら、崩壊し、そして爆破解体された建築。

彼の名は、どこか「消えてしまった建築」と共に記憶されているようにも思われます。

けれど……
彼の眼差しは、決して冷たいものではありませんでした。

彼は、力強さや威圧を誇るような建築を好まず、
むしろ「繊細で親しげなもの」に心を寄せていたのです。

われわれの社会に必要なさまざまな建物は、
われわれを畏怖させ圧服させようとすべきではなく、
われわれの生活のあり方を豊かにして、
現代人の営みのための意味深い背景として役立つ、
環境の一部であるべきものである。

建築とは、人を支配するものではなく、
静かに寄り添う「背景」であるべきだと……
彼はそう語ります。

さらに彼は、人間の本質についても触れています。

我々がもっとも大事にしなければならない人間性のさまざまな性質とは、
愛情や上品さや悦びや静けさや美しさや希望などである。

この言葉は、そのまま彼の建築観へとつながっていきます。

われわれの建築もまた、このような人間のさまざまな性質に基づくべきだ。

彼のまなざしは、あくまでも人間へと向けられていたのです。

そんな彼が日本を訪れた折、
建築家・堀口捨巳の設計した料亭を訪れたといいます。

門をくぐった瞬間、彼はその空間に心を奪われました。
繊細で、静かで、そして満ち足りた美しさ。

床の間に置かれていたのは、たったひとつの低い机。
それだけの構成でありながら、そこには完全な秩序がありました。

そのとき彼は、ふと気づくのです。
自分が日々向き合っている建築の「過剰さ」に。

私は、永久にこの静かな美しさに包まれていたい、と願った。

この一文は、どこか祈りのようでもあります。

もちろん彼は、日本の料亭のような空間が
そのまま現代社会に適用できるとは考えていませんでした。

それでもなお、彼は感じたのです。
これからの建築には「平静さ」が必要であると。

この平静さという性質を充分に吸い込むことは、
われわれの将来の環境のために必要である。

そして彼は続けます。

政治的混乱や交通や人口の増大や機械の凄まじい衝撃によってひきおこされたこの混迷は、
人間が、その正気を保つために、平静な建築的環境を持たなければならないということを要求している。

静けさとは、単なる美意識ではなく、
人間が人間であるための条件なのだと……
そう語りかけてくるようです。

ふと思い出すのは、あのツインタワーの姿。
摩天楼の中にありながら、どこか繊細で、どこか儚い。

その美しさが、あまりにも突然に失われてしまったからこそ……
わたくしたちはそこに、日本的な「もののあわれ」を感じてしまうのかもしれません。

彼の手がけた建築は、いくつか失われました。
けれど、その思想までもが消えてしまったわけではありません。

建築学のテキストや、テロリズムの歴史の片隅に、
そっと置かれてしまった彼の名前。

けれどこの一冊の中では、
その静かな思いが、確かに息づいておりました。

わたくしのSD選書を紐解く旅は、まだ始まったばかり。

次は『都市とデザイン』。

……それまでに、どうぞ。
ほんの少しだけ、「静けさ」をお手元に。

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