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【掌編小説】 花火が始まる前のこと|シロクマ文芸部 参加作品

夜店から少し離れた海岸近くに、僕たちはいた。

波打ち際まで歩けば、夜八時から始まる花火が手を伸ばせば届きそうなくらい近くに見える。

海の近くのこの町では、毎年七月十六日に夏祭りが開かれる。

花火が上がるのは、たった十五分。

それでも人々は、その十五分のために毎年ここへ集まってくる。

この花火大会に来るのは、何度目だろう。


小さい頃は家族と。
中学生の頃は部活の仲間と。
そして今、隣にいるのは24歳の彼女だった。

僕は26歳。

彼女とは某マッチングアプリで出会い、付き合い始めて半年になる。

「隼人。ここに座ろ。ここ、よく見えるよ。」
彼女が砂浜に腰を下ろしながら言う。

「ん。いいやん。」
僕も隣に座り、コンビニで買ったビールを開けた。
まあまあ冷たいが、冷え切っているとは言いがたい。

あと15分か。

缶を口元に運んだ時、不意に思い出した。

高校1年生の夏。

初めて彼女ができた、あの年の花火大会。
付き合ってまだ2か月だった。

幼なじみだった夕陽は、その日、紺色の浴衣を着ていた。

ゆうひちゃん・・・かわいすぎる。

僕は夕陽に何かを言いたかった。

結局、言えなかった。
なんだったんだろうな、あの時、喉まで出かかった言葉は。

でも、確かに今でも覚えているのは、浴衣姿の夕陽を見た瞬間、自分の顔が熱くなったことだ。
このままじゃ夕陽に気づかれる。

僕は夕陽に伝わらないように言った。

「夜店、人多いし……海の方まで歩かへん?」
ちょっと声が震えた。

「うん。」
夕陽は嬉しそうに笑った。

こんなに可愛かったかな。

海岸まで歩き、二人で砂浜に腰を下ろす。
「ここやったら、よく見えるかな。」
「そうやなあ。」

あの時も、花火が始まる15分前だった。

この15分が、ずっと続けばいいな。
夜のままでいてほしい。
僕の鼓動が夕陽に聞こえませんように。
全部波の音で消して欲しい。

そして、できることなら、
この時間が止まりますように。

できもしない、そんなことを、本気で願っていた。



あれから何年もの月日が流れた。

あの時とは違う彼女を、この花火大会へ連れてきた。
始まるまでの15分。

あの日と同じように、花火はもうすぐ始まる。

始まれば、終わる。

花火も。

あの夏も。

ふと隣を見る。

波の音を聞きながら座る彼女は、花火が上がるのを楽しみに空を見上げていた。

僕は、その横顔をもう一度ゆっくり見た。

あの時、言いたかった言葉は、もう思い出せなくなっていた。

それでも、あの夏の鼓動だけは、今も胸のどこかに残っている。



🌷いつもありがとうございます🌷
どうしても書いてみたかった短い小説に挑戦しようと思いました。
海で育った私の思い出を、彼と彼女にそっと重ねる。甘酸っぱい思い出として夜空へ放ってみました。

こちらの企画に参加させていただきました。 ⬇️

#シロクマ文芸部
#夜店から


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