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【掌編小説】 熱帯夜を抜け出して|シロクマ文芸部 参加作品

熱帯夜だ。

8月の夏の暑さは分かる。

だが、今は9月だ。
それでも、昼間の気温は35度を越え、日中のコンクリートに入り込んだ暑さは、夜になると一気に地上に放出される。

怜花は、行きたくなかった飲み会を終え、汗ばむような湿度をまとう夜を歩いていた。

笑うタイミングを合わせる。
相槌を打つ。
興味のあるふりをする。

「彼氏は?」
「地元に戻ったりしないの?」
「え~!いい人とかいないの?」

めんどくさいな。

早く、この熱帯夜から抜け出したかった。
家に帰るだけだと、また明日も普通の明日がやってくる。

**************

路地を曲がった先に、小さな丸い看板が灯っていた。
外の湿った空気とは違う、少し冷えた夜の匂いがした。

夜喫茶 ノーチェ

入っても大丈夫かな。
怜花は、そっと扉を開いた。
「まだ、やっていますか?」
夜22時前のことだった。

数人座っているが、さっきの飲み会とは全く違う距離感が保たれている。

「どうぞ。空いているところへ。」
優しい声をした女性と目が合った。
店員さんだと思うが、すこしお姉さんぐらいかな。

怜花は空いているカウンター席に座った。
どれも手作りみたいだ。
メニューも手書きで可愛らしい。


カウンター内にいる女性の店員は
氷を取り出し、大きめの冷えたコップを取り出した。

クリームソーダ。

緑色がいっぱいになったグラスの上に、
もったりした見た目のアイスが浮かんでいる。

「あ、私もクリームソーダください。」


コーヒーもあるみたい。
ちょっとだけアルコールもあるんだ。

でも今は、もったりしたアイスクリームを食べて、一緒にメロンソーダを飲みたい。

「クリームソーダですね。わかりました。」
「はい。お願いします。」


待っている間、スマホを取り出した。

【今日はお疲れ様でした!】
【ありがとうございました!】
【楽しかったです。ご馳走様でした。】
先ほど終えた飲み会のLINEに連なる文字を見る。

人と同じように合わせることが苦手になったのっていつからだろう。

疲れたな。
明日、仕事は休みなのに、仕事のこと考えなきゃいけないのかな。

「彼氏は?」
「地元に戻ったりしないの?」
「え~!いい人とかいないの?」

こんなご時世に聞くもんじゃないよ。
セクハラでしょ。

熱帯夜のように、
心まで熱を持ってしまった。

**************

「はい、お待たせしました。」

氷がたくさん入って涼しそう。
爽やかな緑色の上に半月の形をしたアイスクリーム。
それと、カラフルな丸いお菓子が乗っている。

「これは、おいりと言います。四国のある街ではお祝い事に配られるのですよ。カラフルでかわいいでしょう。」


「はい。かわいいです。初めて食べます。」

「どうぞ。ふんわり軽いからね。」

「いただきます。」

アイスクリームとおいりを一緒に食べてみる。
ほんのり甘い。口の中ですぐにほどけた。

アイスクリームはしっかりミルキーだ。

口の中から熱が逃げていく。

少し心が落ち着いた。

メロンソーダは懐かしい。


怜花のスマホにDMが届いた。
最近登録したマッチングアプリだ。
「近所に住んでいるかもしれません。」

そんなことよくあることでしょ。
怜花はスマホの画面を下に向けて
もう少しだけクリームソーダを味わった。

さっきまでやだなって思ってたけど、
明日もまた、同じように朝が来る。

生活は止められない。

・・・ちょっとだけでいい、彩りがほしい。

スマホに届いたDMをみる。

んー。返信してみるか。
と、怜花は思った。



まだ書くことはしないけど。

氷がゆっくりと音を立てる。

今夜はもう少しだけ、ここにいよう。

怜花は、アイスクリームとメロンソーダが混じった柔らかいクリームソーダをひと口飲んだ。

ちょっと明日もがんばるか。

🌷いつもありがとうございます🌷
書いてみたかった短い小説に挑戦しています。
まだまだ学びの途中です( ´艸`)

今回は、24歳の怜花が主人公。ちょっと疲れてちゃったんです。
おいしいクリームソーダに出会えたみたい。

小牧幸助さんの企画「波の音」に参加させていただきました

#シロクマ文芸部
#熱帯夜

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