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仏の顔も三度まで☆クリスマス雑魚寝温泉結婚式

〜オットの家族との適切な距離を学べた話〜

第1章、鏡よ鏡

その年の私は春から夏にかけて体調を崩し、秋になってようやく仕事へ復帰したばかりだった。
そんな折に決まったのが、12月25日、電車を降りても尚、万札に翼を授けるタクシーに乗らねば辿り着けぬ場所に在る、或るホテルでの義弟の結婚式である。
なかなかに痺れる条件であった。

結婚式当日、遠路はるばる幾千里、万障繰り上げてホテルに到着。
そこは、日本ラップ界の始祖Yoshi Ikuzoのリリックなリズムが遠くから徐々に響いて来るようなホテルであった。
美容室無ぇ ブースも無ぇ
車もほとんど走って無ぇ
ピアノも無ぇ バーも無ぇ
温泉毎日グーツグツ
俺らこんな宿やだ 俺らこんな洋宿やだ
よし、行くぞう!ってなるかよ〜
と脳内再生しながら、ホテルのスタッフの案内に従ってコートを預け、親族控え室に向かった。
親族控え室に通されて驚いた。
そこは新郎側・新婦側の区別も無く、両家親族が入り混じった控え室だったのだ。

親族控え室に入るや否や、留袖姿の義母が目ざとく私達夫婦を手招きし、こう言った。
「ねぇ、見てよ、コレ!下手糞な着付けでしょっ?
あんた達の結婚式場はもっと上手だったわよっ。
誰かさんがこんなところに決めるから!」
背の低い義母の顔越しに、義弟嫁、その母と姉たち、義弟の鋭い視線が突き刺さった。
どうやら私は王国内の勢力争いに巻き込まれているようだった。
私は、純白のドレスにも劣らぬスノウホワイトの肌を輝かせた義弟嫁と、義母を交互に見ながら言った。
「えぇ~、そうですか?上手く着付けられてると思いますよ。
まぁ、お姑(かあ)さんは主役じゃありませんし」


白雪姫の座を義弟嫁に譲り渡し、私はめでたく鏡になったのでした。
どうか、お姑さま。鏡だけはお割りになりませんよう。

第2章、ピジョンとダヴ

親族控え室のドアがノックされ、ホテルのスタッフが声を張り上げた。
「ただいまより挙式を行いますので〜、挙式会場まで御案内しま~す。おあとを付いて来て下さ〜い」
親戚がぞろぞろと蟻のように列をなし、廊下を通って挙式会場へと向かった。
着いた先は、テラスともパティオともつかぬ奇妙な空間が見える掃き出し窓の前であった。
スタッフは掃き出し窓を開け、無慈悲にも師走の寒空に親戚一同を真っ先に追いやった。
親戚が狭いテラスの壁際に張り付くように立ち尽くす中、新郎新婦がテラスの中央にゆっくりと進んで来た。

牧師も神主も僧侶も不在のまま、結婚式の誓いらしきものが始まった。
スタッフが不慣れな様子で
「こ、これを以ちましておふたりの御結婚の誓いとし〜、末永い幸福をお祈りいたしますっ」
と宣言した。
そして、覆いの掛けられていたランドセル大の鳥籠から布が取り払われると、寒そうに固まった白い鳩が5羽、目をパチクリさせていた。
スタッフは鳥籠を新郎新婦に手渡し、新郎が上蓋を開けた。
本来なら吹き抜けから、青い空に向かって白い鳩がパァーっと翔び立ち、祝福の拍手が起こるのだろう……。

鳩、翔び立ちゃしねぇ。
寒くて身を寄せ合っている。

新郎と新婦は焦って、鳥籠を左右上下に振り回す。
翔べ、翔ぶんだ、ぴ・ジョー・ん!
親戚一同寒さに震えながら(鳩よ、早く翔んでくれ)と祈る中、混乱したように鳩は籠から翔び立ち……近くの木に止まって、そそけた羽を嘴で繕っていたのであった。
拍手するタイミングを失った親戚たちからまばらな拍手がやっと送られ、それに反比例して歯はカチカチと饒舌にカスタネット化していた。


Please stay lovey-dovey couple forever!
ーー義弟夫婦が末永く幸多からんことを、切に切に、希ったのでした。


第3章、蜘蛛の糸、切れる 

最後のダンジョン。
それは、伽藍とした部屋の中央に、2m✕7mほどの細長い机がどんと置かれた空間であった。
テーブルクロスの上には食器とカトラリーだけが整然と並べられていた。
席次表無し、席札無し、スタッフのアテンド無し……
無い無い尽くしで、脳内に再登場しようとするYoshi Ikuzoと、私は必死に格闘していた。
現場では、義母の采配で義弟側親族の席順が次々指定されており、私達は抗う術も無く着席したのであった。
ちなみに私は一番ドアに近い末席であった。
魔女の怒りを買った結果なのかは定かでない。

そうこうしているうちに洋食のコース料理が運ばれて来た。
私はもう既に別の意味でお腹いっぱいであり、料理の味もさっぱり判らなかった。
暫くして、デザートにメロンがサーブされた。
伯母達の声がテーブル中に響いた。
「これ、マスクメロン?」
「嫌〜ねぇ、アンデスメロンじゃない?」
人目も憚らず、伯母達はフーディーめいた会話を交わしていたが、その一言一句がテーブルの空気を不穏にしていた。
ほどなく何ともスリリングな食事会が終わった、らしかった。
始まりの挨拶も乾杯も無く、新郎新婦のスピーチも無かったので、これは披露宴ではなく、他人同士の寄せ集めの食事会であろう。

さぁ後は引出物を頂いて帰ろうとした時に、衝撃の事実が義母から告げられた。
「何かねぇ、引出物は、このホテルの大部屋にみんなで泊まって温泉に浸かることなんだって」
耳を疑った。I beg your pardon?
名前も属性も知らない初対面の赤の他人と雑魚寝で温泉に浸かれだと?
最終ダンジョンでラスボスキターッ!
無理無理ムリムリ絶対無理。
私(だって着替えのパンツ持って来てないもん)
夫(だって明日仕事だぜ?)
私と夫は目配せしながら「帰ります」とだけ告げた。
義母がしつこく引き止めるのを「引かぬ、媚びぬ、省みぬ」の姿勢で固辞しつつ、タクシーを呼ぶためにホテルのフロントへ向かおうとした。
その時、伯父伯母夫婦が声を掛けてきた。
「こんなに駅から遠くちゃ、迎車料金も馬鹿にならないぞ。私達の車に一緒に乗って行きなさい」

私達夫婦は伯父夫婦のご厚意に甘え、最寄り駅まで送っていただくことにした。
伯父が車をホテルのエントランスに回して来てくれた。
先ず夫が運転席の後ろに乗り、次に私が助手席の後ろに乗った。
最後に着物姿の伯母が乗り込むのだが、お太鼓帯を締めているので、助手席を少し後ろにずらして良いか聞かれ、私は快諾した。
車が発進し、夜の闇を滑るように走り出すと、思い出したように伯母が言った。
「そういえば、あなた達の結婚式の時はワンピースでごめんなさいね」
私は恐縮しながら応えた。
「いえ、とんでもないことです。……御病気の後すぐでしたのに、御出席いただけただけで、もう充分過ぎるほどでした」
ヒーターが効いてきたのか、車内は温かい空気で満たされていた。
何気ない会話をぽつりぽつりと交わすうちに、車は着々とホテルから離れ、駅へと近づいて行った。
そんな時だった。
伯父が夫に話し掛けた。
「なぁ、君の弟は、なんであんな所で結婚式を挙げたんだい?」
私は思わず夫の顔を見た。
夫は笑顔で爽やかに言った。
「さぁ~、なんででしょうねぇ?」


違う、そうじゃない。
そこは謝るところだよ、ベイベ……


あぁ、地獄からやっと逃げられると思っていたのに、此処にも地獄の出張所があった。蜘蛛の糸がプツンと切れる音がした。

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年末の結婚式は非常識だと私は思うのです。
仏のような私でも、義弟の結婚式のようなものには二度と行きたくありません。
白雪姫の継母のような姑、
寒空に鳩が翔ばない結婚式、
雑魚寝温泉引出物にも他人事のズレた夫……
ハイ、三度。
えぇ、これを機に私はオットの家族との適切な距離感についてようやく学べたのでした。

#創作大賞2026 #エッセイ部門 #実話#プライバシー保護のため一部再構成あり#結婚式出席


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