読書の記録『不思議の国のアリス With artwork by草間彌生』―美しい世界へ―
たくさんの色が混ざり合いすぎて、最後には真っ黒になってしまうのではないかと心配になってしまうほど混沌としているアリスの世界。
だけどそれが終始、色鮮やかでワクワクと胸躍る物語となっているのは、決して親切とは言えないマイペースでヘンテコな生き物たちを捉えるアリスの目と心が、純粋で豊かだからなのかもしれません。
お友達にはなれそうにないかも…と思ってしまうようなちょっぴり自分勝手な生き物たちでも、そこにアリスが関われば、みんなたちまち愛すべき存在へと変身します。
協調性がなくて各々が自分の好き勝手にお喋りしている不思議の国の住人たち。
だけど、皆それぞれ何かに対して一生懸命で、健気で、魅力的な一面を持っていて。
一筋縄ではいかない彼らとの交流を決して諦めないアリスの真っ直ぐさと、そんな彼女が体験する摩訶不思議な事柄には、何度読んでも夢中になってしまいます。
たとえ混沌とした世界であったとしても、そこに暮らしている生き物たちの魅力に気が付くことさえできれば、たちまち世界は輝きだして、賑やかで愉しげな音が聞こえ始めることだってあるのです。
私も、アリスのようになれたらいいな。

『不思議の国のアリス With artwork by草間彌生』
『不思議の国のアリス With artwork by 草間彌生』が魅せてくれるのは、アリス自身が持っている心の豊かさと強さそのもの。
この本を最初に読んだときは、草間ワールド全開の挿画とアリスの物語が自分のなかで上手く噛み合ってくれず、素敵な本だけれど、ものすごくお気に入り…というわけではないなあと思っていました。
でも今回、とあるきっかけがあってこの本を読み直してみたら、前回とはまったく違う印象だったのでビックリ。
草間さんが描いているのは、まぎれもなく夢と愛に溢れたアリスの世界でした。
初めましての本は、「大事に読みたい!」という気持ちが余計な力みへと繋がってしまい、それが原因で空回りして本の内容を上手に拾えなくなってしまうことがままあります。
前回も、「丁寧に観なくちゃ」と思うあまり、草間さんの挿画をアリスの物語から無意識のうちに切り離してしまっていたのかもしれません。
今回の再読では肩の力が少し抜けていたので、物語の一部として挿画を観ることができたと思うのですが、アリスの冒険と挿画が愉しく呼応していて、とても素敵だなあと思いました。
草間彌生といえば、のカボチャや水玉もたくさん出てくるのですが、それもちゃんと「不思議の国のアリス」の一部になっているのです。
ページのなかの水玉が、まるで読者を愉しい夢の世界へと誘うように配置されていて、本のページを捲るたびに美しい歓びが待っています。
物語に合わせて、文字も大きくなったり小さくなったり(タイポグラフィーと呼ぶらしいです)するのですが、それもとても愉しくて。
文字が伸び縮みするたびに、まるで大きくなったり小さくなったりするアリスが目の前にいるかのような、ワクワクとした気持ちになりました。
この本を読んで想い出したのは、とある美術館で草間彌生さんの展示を観たときのこと。
一枚、とても印象的な作品があって。
私の記憶の中で生きているそれは、たしか真っ白な作品だったと思うのですが、とても美しくて、その前でしばし佇んでいたのを覚えています。
解説パネルには、「愛」や「平和」という言葉もあったような気がしたのですが、これは他の記憶とごっちゃになっている可能性もあるので定かではありません。
だけど、草間作品には「愛」、「平和」への願いが込められているのだということを意識したのはこの時からで、そこからますます草間彌生さんが好きになったように思います。
『不思議の国のアリス With artwork by草間彌生』の草間彌生さんのあとがきにも、「愛」や「平和」という言葉が出てくるのですが、このたった1ページのあとがきだけでも読む価値があるなあと個人的には思っているくらい、素敵な文章です。
その世界の美しい幻を、抱擁したい。
『不思議の国のアリス With artwork by 草間彌生』
「アリスの世界はわたしのもの、わたしのすべて―」
(グラフィック社)より
アリスの世界の美しさを独自の表現で追求した草間彌生さんの『不思議の国のアリス』。
その根底に流れるのは、愛への、平和への願いなのだと思います。
だから私も願うのです。
草間さんの描くアリスの世界に触れた人の心が、温かで豊かになりますように。
世界中の誰しもが、アリスの不思議の国にワクワクと夢中になれる平和な世の中に、どうかなりますように、と。
