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小説【ハムレット〜要塞の王城〜】#10

✅️クローディアスの謁見

王弟クローディアスは、冷たい光が差し込む執務室で書類に目を落としていた。

机の上には王印の押された報告書が積まれている。しかし、彼の視線は文字を追ってはいなかった。

指先で机を軽く叩きながら、しばらく考え込む。

「……呼んでくれ。」

側近が一礼すると、クローディアスは静かに続けた。

「ローゼンクランツとギルデンスターンを。」

やがて、二人の青年が部屋へ入ってくる。

「久しいね。」

クローディアスは微笑みながら立ち上がった。

「ローゼンクランツ、ギルデンスターン。君達に頼みたいことがある。」

二人は顔を見合わせる。

ただの旧友との再会ではない。 王弟自らが呼ぶ以上、何か理由がある。

「ハムレットのことだ。」

クローディアスは声を少し落とした。

「彼の精神状態が……芳しくない。」

一瞬、部屋の空気が重くなる。

「父君を亡くした悲しみは理解している。しかし、最近の彼は部屋に閉じこもり、周囲への態度も荒れている。」

クローディアスは窓の外へ視線を向ける。

「医者を呼ぶ前に、まず君たちに頼みたい。彼が昔から知る友人なら、心を開くかもしれない。」

二人は静かに頷いた。

先王は病死した。 そう聞かされている。

だからこそ、ハムレットの変化が気になった。

「分かりました。」

ローゼンクランツは答える。

「彼の様子を見てきます。」

ギルデンスターンも柔らかく笑った。

「昔の友人ですから。」

しかし、その笑顔の奥には少しの緊張があった。

✅️ハムレットの部屋

薄暗い部屋。

高く積まれた書物。 閉じたカーテン。 机の上には読みかけの本。

ハムレットは一人、本を開いていた。

扉が静かに開く。

「やあ、ハムレット。」

声に反応して、ハムレットの指が止まる。

ゆっくり顔を上げる。

「……どうして来た?」

その目は懐かしさよりも警戒を宿していた。

目の前の二人には確かに昔の面影がある。

だが、突然訪れる理由が分からない。

(誰かが糸を引いている。)

ハムレットはそう感じ、本へ視線を戻した。

「久しぶりだね。」

ローゼンクランツは明るく振る舞おうと笑った。

「社交界のパーティー以来かな。」

「そうそう。」

ギルデンスターンは手に持った包みを差し出した。

「これ、お土産。お菓子だけど……食べられるか分からないけどね。」

気遣うような笑顔。

しかしハムレットの表情は変わらない。

「パーティー……ああ。」

記憶を探るように目を細める。

「覚えてる?」

ローゼンクランツが尋ねる。

「ローゼン……ギルか。」

ハムレットは小さく呟いた。

「記憶が曖昧だ。人が多かったからな。誰が誰だったのか……。」

その言葉に、二人は一瞬黙る。

「無理もないよ。」

ローゼンクランツは苦笑した。

「小さい頃はよく遊んだじゃないか。」

「……そうだったかな。」

ハムレットの声には温度がない。

「誰が呼んだ?」

突然の問い。

二人の笑顔がわずかに固まる。

「え?」

「僕を訪ねる理由だ。」

ハムレットの目だけが鋭くなる。

「誰が君たちをここへ?」

ローゼンクランツとギルデンスターンは一瞬、迷った。

「……ポローニアスだよ。」

「官僚のポローニアス?」

ハムレットはゆっくり顔を上げる。

(やはり……。)

「あの男か。」

再び本へ視線を落とした。

「オフィーリアは元気か?」

ローゼンクランツが尋ねる。

「あの子か……。」

ハムレットは少し間を置いた。

「兄上の側にいる。」

「そうなんだ。」

ローゼンクランツは微笑む。

だが、その笑顔の奥には昔から消えない感情があった。

オフィーリア。

かつて自分が先に想いを寄せた女性。

ハムレットと距離ができた原因。

青春時代の小さな嫉妬。

しかし、その傷は完全には消えていなかった。

「最近は外に出ているの?」

ギルデンスターンが優しく聞く。

「天気も良いし、気晴らしになると思うよ。」

ハムレットは窓を見る。

灰色の空。

「デンマークは牢獄だ。」

二人は顔を見合わせる。

「……え?」

「デンマークは牢獄でしかない。」

同じ言葉を繰り返す。

ローゼンクランツは困ったように眉を寄せる。

「外は自由だよ。」

「自由?」

ハムレットは薄く笑う。

「壁がある場所だけが牢獄だと思うのか?」

二人は答えられなかった。

ローゼンとギルはクローディアスに報告した。

「なるほど……。」

クローディアスは椅子に座ったまま、二人の報告を聞いていた。

「やはり状態は良くないか。」

「はい。」

ローゼンクランツは慎重に答える。

「会話はできます。しかし……何かを疑っているようでした。」

ギルデンスターンが続ける。

「昔の友人として接しましたが、彼は我々を歓迎しているというより、探っているようでした。」

クローディアスは目を伏せる。

「最近では、メイドを押し退けたり、叫んだり、物に当たることもある。」

二人は黙って聞く。

「食事中、銀の燭台を投げたこともあった。」

クローディアスはため息をつく。

「ポローニアスを庇った私は、額を怪我したよ。」

「そんな……。」

ギルデンスターンが眉をひそめる。

「血が出るほどだった。」

クローディアスは静かに言った。

「一人で何かを呟くこともある。父を失った悲しみだけなのか、それとも……。」

言葉を濁す。

「君たちには悪いが、しばらく彼の側にいてほしい。」

二人は互いを見る。

「分かりました。」

ローゼンクランツは頭を下げた。

「ハムレットには申し訳ありませんが……様子を見ます。」

ギルデンスターンも続ける。

「できる限り、彼の力になれるよう努めます。」

クローディアスは微笑んだ。

しかし、その瞳には別の思惑が隠れていた。

📚️続く📚️


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