見出し画像

小説【ハムレット〜要塞の王城〜】#11

(SF小説書いてて悩みすぎて更新遅れました。すみやせん。)

✅️壊れゆく世界

メイドが窓を開けた。

風通しを良くする為に掃除に来た。

小鳥が開いた窓へやってきた。

メイドは他の窓も開けようとすると、ハムレットが横隣の窓へ近付いた。

「食べろ・・・。」

小鳥は首を傾げるだけで、青カビの生えたチーズには見向きもしない。

「ほら、食べろ・・・。」

ハムレットは瞬き一つせず、小鳥だけを見つめていた。その横顔には怒りも悲しみもなく、ただ底知れぬ空虚だけが漂っている。

離れた場所で窓を開けていたメイドは、その光景に思わず息を呑んだ。

「王子様・・・?」

震える声で呼びかけても、ハムレットは振り返らない。

「死ぬか知りたいだけだ。」
ハムレットは振り向きもせず、一人で呟いていた。淡々と呟かれた一言に、メイドの背筋を冷たいものが走る。

「お、王子様・・・。」

言葉を失った彼女は裾をつまみ、慌てて廊下へ駆け出した。

「王子様が・・・王子様が可笑しくなられました!」

その噂は瞬く間に宮廷中へ広がり、やがてポローニアス、そしてクローディアスの耳にも届く。

「また王子が狂ったらしい。」

誰もが不安げに囁き合っていた。

✅️図書館

午後の昼下がり。

こんな悔しい事なんてない。

本来なら王位継承は僕なのに。

でも僕は勉強が苦手で王位継承なんてする気もなかった。

叔父にやって欲しいって思った時期もあった。

それが今、現実になってるんだよ。

自分の分際で何が王位継承なんだ。

責任のなさが今、露呈する。

「悔しいがきっとあいつは意気地なしと嗤ってるだろう。」

時間が経った後にポローニアスが扉をノックした。

「ハムレット様、いらっしゃいますか? ああ、こんな場所におられたのですか。何を読んでいるのです?」

「言葉、言葉、言葉。」
本から目を離さないまま、生気のない虚無感のある声だけが返ってくる。

死んだ顔をしたハムレットにポローニアスは少し眉を潜める。

ポローニアスは笑みを浮かべたものの、その笑みは少しずつ曇っていく。

「何か私にできることがあれば、遠慮なく仰ってください。執事だけでなく、この私も力になりますぞ。」

探るような眼差しを向けながら、穏やかな口調を装った。

「言葉、言葉、言葉。」

俯き加減で同じ言葉を繰り返す。

ポローニアスは様子の可笑しさに黙った。

困ったように眉を寄せ、小さく咳払いをする。

「・・・まだ本を読み続けたいのであれば、ゆっくりして良いですぞ。私は仕事があるので失礼しますぞ。」

踵を返そうとした、その時だった。

「貴方は魚屋だ。」

静かな声が背中に突き刺さる。

「・・・魚屋?」

思わず振り返る。

「言葉、言葉、言葉。」

まるで先ほどの一言など忘れてしまったかのように、ハムレットは同じ言葉を繰り返す。

「魚は腐れば臭う。人も同じだ。」

ページをめくりながら、ぽつりと呟く。

脈絡のない言葉にポローニアスは返す言葉を失い、居心地の悪そうに一礼すると足早に部屋を後にした。

扉が閉まる音だけが静かな図書館に響く。

「・・・ああ、欺瞞の足音。窮屈な気遣い。腹黒い吸血鬼に血を吸われ、絶望だけが積み重なる。死後硬直したように止まった時間・・・至極、この世界は残酷で、そして退屈だ。」

ハムレットは本を閉じると、深く息を吐いた。

✅️オフィーリアの相談

オフィーリアは流行りのフランス刺繍に挑戦していた。

退屈な時間を消化するにはこういった花柄の裁縫が楽しい。

音楽も嗜むがプロみたいに弾ける訳でもない。

好きなものは小さな頃はお人形遊びや恋愛の本だったが、今は裁縫に凝ってる。

「痛っ・・・刺さったわ。」

針先が指先をかすめ、オフィーリアは小さく眉をひそめた。

赤くなった指先を確認し、ほっと胸を撫で下ろす。

「血は出てないみたい・・・良かった。」

その時、廊下から控えめなノックが響いた。

「失礼いたします。」

聞き慣れた執事の声だった。

差し出された封筒を見ると、宛名には自分の名前がある。

「ハムレット様からでございます。」

オフィーリアは驚いた表情で礼を言い、そのまま父ポローニアスの部屋へ向かった。

「ハムレットから珍しく手紙が届いたの。パパ、どう思う?」

期待と戸惑いが入り混じった瞳で父を見つめる。

ポローニアスは封を開き、ゆっくり読み進めた。

手紙の内容。

オフィーリアへ。

私の心は、あなたを思うたび静まることを知らない。 この世のどんな言葉も、私の愛を語り尽くせはしない。 どうか、この想いだけは疑わないでほしい。
                                                    ───ハムレット

「ほう・・・悩んでいたのはこれか。なるほど・・・王子は娘に心を奪われているのか。」

顎に手を当て、小さく頷く。

「王子は、お前に心を奪われているらしい。」

ポローニアスは手紙を読んで恋の病だったと知った。
オフィーリアは絶世の美女だ。
社交パーティーでも他国の王子が見惚れるくらいだ。
オフィーリアに思いの丈を隠しきれなかったから手紙を綴ったのか。

ポローニアスは先王の死を気にかけていたがハムレットはオフィーリアを気にかけていたらしい。

オフィーリアは照れくさそうに視線を伏せ、頬をわずかに染めた。

しかし、ポローニアスの表情はすぐに険しくなる。

「だが、精神が乱れている今の王子の言葉を、そのまま信じてはならん。」

手紙を静かに机へ置く。

「前にも言ったが、ハムレットの精神状態が悪い。いつ感情が暴走するか分からない。お前に危害が及ぶ可能性もある。レアティーズに監視させつつ、オフィーリアも距離を保ってくれ。」

「まだ精神状態が不安定だものね・・・。」

オフィーリアも不安そうに小さく頷いた。

「しばらくは兄のレアティーズを護衛につけよう。決して一人で会ってはいけない。」

父は娘を安心させるように肩へ手を添える。

「分かったわ。」

オフィーリアは少し寂しそうに微笑んだ。

「お兄様が一緒なら安心だもの。」

彼女は胸に手紙を抱き閉めた。

嬉しさと切なさが入り混じった複雑な表情のまま、窓の外へ視線を向けた。

そこでは微風に揺れる木々が、静かに葉を鳴らしていた。

📚️続く📚️


いいなと思ったら応援しよう!