娘に、抱きしめられた日
子ども達が思春期になった頃。
私は、とあることが原因で
誰にも言えない苦しさを
抱えていました。
生きていることすら、しんどい‥
毎日をこなすだけで精一杯。
今思えば、
心は限界に近づいていたのだと
思います。
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長男が家を出た後、
家には思春期真っ只中の娘たちが
残りました。
毎日のように繰り返される姉妹喧嘩。
そのたびに仲裁に入りながら、
私自身も
心がバラバラになっていました。
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ある日、
いつものように
姉妹喧嘩が始まりました。
その瞬間、
私の中で何かが切れたんです。
ずっと張りつめていた糸が、
プツンと切れてしまったような
感覚でした。
意識は何となくある。
でも、
口から出る言葉を
自分で止めることができませんでした。
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「不憫な思いをさせたのも!」
「お金がなかったのも!」
「全部、私が悪いんでしょう!!」
叫びに近い言葉だったと思います。
怒りとも悲しみともつかない形で
噴き出してしまいました。
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私は泣きながら叫び、
その場に崩れ落ちました。
何を話したのかも、
どれくらい泣いていたのかも、
正直よく覚えていません。
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すると、
取り乱している私を、誰かが
ぎゅっと抱きしめてくれたんです。
それは、
長女でした。
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私は泣き続けていました。
でも、
娘に抱きしめられた瞬間、
気づいたことがありました。
娘の心臓の音です。

ドクン。
ドクン。
ドクン。
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驚くほど速く打っていました。
その時、
私は、ハッと我に返ったんです。
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ああ‥
この子は怖かったんだ。
心配していたんだ。
必死だったんだ。
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私が苦しかったように、
娘もまた、
目の前で壊れていく母親を見て
相当、不安だったはずです。
それなのに娘は、
自分も怖かったはずなのに、
泣き叫ぶ私を責めることもなく、
ただ抱きしめてくれていました。
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そして、
優しくこう言ったんです。
「私たちは、幸せだよ」
「お母さんの子どもで良かったと
思っているよ」
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その瞬間、
娘の腕にしがみつき、声を上げて
泣いてしまいました。
娘はきっと、
取り乱している私を、
落ち着かせようとしてくれたのだと
思います。
あの言葉は、本心だったのか。
私を安心させるためだったのか。
それは、今でもわかりません。
でも、
あの時の私には十分でした。
ずっと息を止めて生きていた私が
やっと、呼吸を取り戻せたような
気持ちだったんです。
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私はずっと、
子ども達に申し訳ないと
思っていました。
寂しい思いをさせた。
我慢ばかりさせた。
欲しいものも、
十分には買ってあげられなかった
こと。
それは、
私が背負う罪だと、ずっと思って
いました。
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でも、
子ども達は違いました。
私ができなかったことではなく、
私が必死に生きてきた姿を
見ていてくれたんです。
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あの日、
娘に抱きしめられながら
思いました。
私はずっと、
子ども達を守っているつもりでした。
でも本当は、
何度も子ども達に
支えられていたんだと。
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小学二年生の頃、
「これでお母さんの声が聞けるから、
寂しくないよ」
そう言ってくれた娘。
そして思春期になった娘は、
「私たちは、幸せだよ」
「お母さんの子どもで良かったと
思ってるよ」
そう言って、
今度は私を抱きしめてくれました。
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今でも辛いことがあると、
私はあの日を思い出します。
娘の速い心臓の音。
あの温かい腕。
そして、
「私たちは、幸せだよ」
「お母さんの子どもで良かったと
思ってるよ」
という言葉を。
あの日、
私のバラバラだった心を、
救ってくれたのは、
間違いなく娘でした。
