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鍼が治すんじゃない。鍼灸師になって気づいた、本当に大切なこと

「鍼をしたから、治ったんですよね?」

患者さんから、そんなふうに言っていただくことがあります。

もちろん、鍼治療によって身体が変化することはあります。

痛みが軽くなったり、
動かなかった身体が動きやすくなったり、
張りつめていた身体がふっと緩んだり。

私は鍼灸師なので、鍼の力を信じています。

というより、鍼灸が大好きです。

身体って面白い。

どうしてここが痛くなるんだろう。
どうしてここに鍼をすると、違う場所まで変わるんだろう。

そんな話なら、一晩中でもできるくらいです。

でも、長く患者さんの身体に触れてきて、今は少し違うことも思うようになりました。

鍼が治すんじゃない。

治っていく力を持っているのは、
患者さん自身の身体なのだと思います。

身体は、私たちが思っている以上に優秀です。

疲れたら重くなる。

無理をしたら痛くなる。

心が疲れているときには、
身体までガチガチになることもあります。

身体はちゃんと、

「少し休んで」

「無理しているよ」

「ここに気づいて」

と、いろいろな方法で教えてくれている。

鍼灸師の仕事は、その声を一緒に聞くことなのかもしれません。

私は鍼を打ちます。

身体を触ります。

そして患者さんのお話も聞きます。

昔の私は、もっと治療そのものに必死でした。

鍼灸師になったばかりの頃は、
目の前の身体をどう治療するかで頭がいっぱい。

患者さんとゆっくり話をする余裕なんて、ほとんどありませんでした。

でも、たくさんの患者さんと出会ってきて分かったことがあります。

身体だけを見ていても、分からないことがある。

「最近、眠れていますか?」

「お仕事、忙しくありませんか?」

「何かありました?」

そんな何気ない会話から、
身体の不調の理由が見えてくることがあります。

そして治療が終わったあと、

「身体が楽になりました」

と言ってもらえるのと同じくらい、

「今日は話を聞いてもらえてよかった」

と言っていただけることが、私は嬉しい。

鍼灸師になったばかりの頃には、
分からなかったことでした。

技術はもちろん大切です。

知識も必要です。

私は今でも勉強することがたくさんあります。

でも、人の身体に触れる仕事を長く続けてきたからこそ思います。

人は、身体だけで生きているわけではない。

嬉しいことも、
悲しいことも、
仕事のことも、
家族のことも、
言葉にできない気持ちも。

全部抱えて生きています。

だから私は、

「ここが痛いですね」

だけで終わる鍼灸師にはなりたくない。

その人が今日ここへ来るまでに、
どんな毎日を過ごしてきたのか。

そんなことまで想像できる鍼灸師でいたいと思っています。

鍼が治すんじゃない。

私が治すんでもない。

患者さんの身体には、
もともと回復しようとする力がある。

私は、その力が動き出すための
小さなきっかけを作っているだけなのかもしれません。

そして治療院を出るとき、

来たときより少し身体が軽くなって、

来たときより少し心も軽くなって、

最後に笑って帰ってもらえたら。

それが今の私にとって、
いちばん嬉しい治療です。

45歳になった今も、
私は人の身体のことが面白くて仕方ありません。

そして同じくらい、

人って面白いな。

と思っています。

鍼灸師として患者さんと出会い、
一人の人間としていろいろな経験をしてきました。

ここでは、そんな人との関わりの中で気づいたことを書いています。

技術だけでは学べなかったこと。

教科書には載っていなかったこと。

そして、45歳になった今だから分かるようになったこと。

これからも、少しずつ書いていこうと思います。

鍼が治すんじゃない。

その言葉の意味を、
私はこれからも患者さんから教えてもらうのだと思います。

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