【エッセイ】10 恋をした胃管の彼
※この記事は、作品の雰囲気がより伝わるようタイトルを見直しました。本文の内容に変更はありません。
私が20代前半の頃の話。
外科病棟には、重症の患者さんや急性期の患者さんなどが入る観察室みたいな個室があった。
その日はその個室の担当で、病室にバイタル測定に入ると、胃管を入れられて真っ青な顔色の男性患者さんがベットに横たわっていた。
なんと不謹慎なことか、私はその胃管が入った彼にひとめぼれをしてしまったのである。
ふつう、胃管が入った姿はどう見ても患者さんにしか見えないのに、それでも好意を抱くくらいタイプだった。
年齢は私より5つ年下であったが、受験生でストレスからか胃から出血して緊急入院になっていた。
彼は手術することもなく、徐々に回復していった。
ちょうどバレンタインの時期でもあったのだろう。
私は恥ずかしさや、後ろめたい気持ちもありながら、彼をこそっと呼び出して、チョコを渡した記憶がある。
でも、今考えるといくら回復期でもチョコはどうなのか?
病状的にあげてよかったのか?
そんなことも当時は考えられない有り様だったのだろう。
彼が無事に退院して、進路も決まってからデートしたことがある。
私が年上であり、私の方からアプローチしたこともあって、まじめな私はリードしないといけないと思った。
でも、できないもどかしさ。
彼も真面目な性格で、お互いに緊張し何気ない話をしながら、グルグルと街中を行く宛もなく回った記憶がある。
その後、彼とは友だちになり、時々会ったりしていたが、お付き合いをすることはなかった。
彼は大学院に行くことになり、地元を離れた。
だけど、その後も連絡を取り合い、たまに会ったりしていた。
あるとき、私が悪かったのであろう、ケンカの理由は忘れてしまったが、彼を怒らせてしまったのである。
それから、連絡が取れなくなり、そのまま今に至っている。
彼から誕生日プレゼントにもらったティーカップセットは、何年もたった今でも捨てることができていない。
きっと彼はいい教師になって、いいお父さんになっていることだろう。
若かりし頃の甘酸っぱい思い出である。
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ささやかですが…。