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【奇跡】ビッグデータに”直感”を組み込んで活用。メジャーリーグを変えたデータ分析家の奮闘:『アストロボール』

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「半世紀で最悪の野球チーム」は、「ビッグデータ」と「直感」で優勝した

「アストロズ優勝」を予言した著者

まずはこんな話から始めよう。著者が「2017年、アストロズがワールドシリーズの覇者となる」と予言した話だ。

『スポーツ・イラストレイテッド』という、アメリカで非常に有名なスポーツ雑誌がある。定期購読者も含めれば300万人もの読者がいる。この2014年6月30日号の表紙に、「2017年のワールドシリーズ覇者」というタイトルをつけて、アストロズの外野手であるジョージ・スプリンガーを起用したのが、本書の著者なのだ。

しかしこの号は、アストロズの地元も含め、大ブーイングを巻き起こす。それもそのはずだ。何故なら2014年の時点でアストロズという球団は、

その半世紀で最悪の野球チームだった

という状態だったからだ。それでも著者は、「何故負けているのか分からない」と考え、編集長を説き伏せて、このありえない起用を行った。

そして、まさに著者の予言通り、2017年にアストロズはワールドシリーズの覇者となる。

サイ・ヤング賞を受賞したカイケル投手

もう一つ、印象的なエピソードを先に挙げておこう。

カイケルという投手は、球団の立て直しのためにデータ分析家が関わる以前からアストロズに所属していた。球速は140キロ台、これといった球種はなく、常に名前を呼び間違えられるような、実にパッとしない選手だった。カイケルはトレードに出されそうになったが、「誰もほしがらなかった」というだけの理由でアストロズに残っていたのだ。

しかし、そんなカイケルは、2015年のサイ・ヤング賞を受賞した。その年最高の投手に与えられる賞だ。なぜこんな激変が起こったのか?

アストロズに関わることになったデータ分析家は、「良い人材をスカウトする」ためのシステム開発に取り組んでいた。様々なデータを入力することで、チームに必要な人材を見極め獲得するためだ。そして同じシステムは当然、既に球団に所属している選手に対しても使える。チームの選手の方がデータも取りやすいので、より正確な分析が可能だ。

チームの選手のデータを分析した結果、データ分析家たちは「守備シフト」を提案する。私は野球に詳しくないが、この「守備シフト」、今ではあらゆる野球チームが採用している手法である。それを、アストロズのデータ分析家たちが最初に提案したのだという。

これは、対戦相手の選手がどの方向に打球を飛ばすのかなどのデータから、打者ごとに守備位置を大きく変える、というやり方だ。カイケルは当初、この「守備シフト」に反対したが、実のところこの「守備シフト」に救われたのだ。球速はなかったが、異様なほどコントロールの精度が高い投手だったので、「コントロール」と「守備シフト」の組み合わせのお陰で、カイケルはサイ・ヤング賞を受賞できたのである。

本書はこんな風に、メジャーリーグで偉業を成し遂げた「野球のド素人」たちの奮闘の物語である。

「野球」の話に留まらない

先に書いておこう。本書は決して「野球」の話に留まるものではない。私自身、野球にはまったく興味がなく、ルールを知っている程度の人間だ。以前、当時巨人の選手だった「長野」を「ながの」と読んで間違いを指摘されたこともある。

この作品は、今後世の中を大きく激変させていくだろう「ビッグデータ」の物語である。そして本書からは、「ビッグデータだけでは不十分」という重要な認識を得ることができる。

アストロズがコンピューターだけで球団運営を行っていたら、プエルトリコ出身の高校生のショートをドラフトで指名しなかっただろうし、身長168センチの二塁手を入団させなかっただろうし、四十歳のフリーエージェントの選手と契約しなかっただろうし、年俸200万ドルを支払わなければならない三十代半ばの投手をトレードで獲得しなかっただろう

この作品の非常に興味深い点は、「ビッグデータには、人間の直感を組み込む必要がある」という指摘である。データだけ分析していても、本質は見えない。当たり前だと思われるかもしれないが、そういう意識の人も多くいるのではないだろうか。ビッグデータさえ分析すれば、なんでもわかる、と。

あるいは、ビッグデータだけでは不十分だと理解している人でも、じゃあどうすればいいのかまでは分からないという人も多くいるだろう。

この点で本書は、『マネーボール』と一線を画する。

ブラッド・ピット主演の映画の方がよく知られているかもしれないが、この作品は、アスレチックスというメジャーリーグの弱小球団を、同じようにデータ分析で躍進させた実話が元になっている。しかし『アストロボール』では、

『マネー・ボール』では、スカウトたちは主に抵抗勢力として描かれており、進展の前に立ちはだかる間抜けで時代遅れな人間だと扱われていた

と書かれている。「データ分析は凄いのに、スカウトはぜんぜん理解しない」というスタンスで描かれているということだ。

『マネーボール』は、「ビッグデータ」などという単語が世に知られていない頃の話だろうし、そういう時代においては、「スカウトは敵」という分かりやすい構図を作らなければ戦えなかった、という背景もあったかもしれない。しかしそうだとしても、「データ至上主義」に偏っていたことは間違いないと思う。

いかにしてデータに直感を組み込むか

本書に登場するデータ分析家は、非常に優秀である。それは「データを分析する能力に長けている」という意味でももちろんなのだが、それ以上に、「データを過信しない」という部分においてさらに強調される。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

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