利益を生まないオフィスに7000万円かけた老舗中小企業が本当に投資したかったもの
側島製罐では2024年に事務所のフルリノベーションを実施しました。
「オフィスに高いお金をかけると会社が衰退する」というのは一般的な定説で、自分も例に漏れず「事務所に大金をかけるなんてバカな経営者がやることだ」と何度か言われたこともありました。しかし、誰に何と言われようと、この意思決定は正しいはずだと信じてやり抜いたところまで来たので、なぜオフィスを改装しようと思ったか、どんな想いでやったのか、その経緯を改めてまとめてみようと思います。
会議室も来客スペースもないオフィス

側島製罐の事務所は1998年に建てられたものでした。まだ築25年程度とそれほど老朽化しているわけではありませんでしたが、当時は広報や新規事業など新しいポジションの採用で人手も増えた影響で事務所のスペースも限界に達していました。主な問題点は以下のような感じです。
・会議をする場所が食堂しかない
・休憩スペースがない(車でお昼食べたり)
・来客スペースがない(隅っこに机が置いてあるだけで電話の声丸聞こえ)
・上下関係を示すような役席用の席
・デザインのデの字も感じられない意匠
・そもそも狭すぎ
・工場の人がめちゃ入りづらい(ノックして「失礼します」と言って入室)
端的に言うと”居心地の悪いオフィス”というのが当時の状態でした。お客様がいらしてもまともにおもてなしができず、新しい人を採用しようにもスペースもなく、会議をしたくても話す場所がないといった具合で、事務所が事業のボトルネックになっていたように感じます。
また、弊社は缶メーカーなのですが、「缶は包装資材の最高級品」と言われる通り、日常業務ではお客様から大事なデザインをお預かりする立場にあります。そんな会社がデザインのことを一ミリも理解しておらず、せっかくの渾身のデザインも「デザインのことはよくわからないですけど言われた通り作ればいいんですね?」というお返事しかできないような会社はお客様に対して極めて不誠実なのではないか、という心境にありました。
予算1000万円で難航するパートナー探し

当初はどれだけ予算をかけるかで非常に悩んでいました。建物は3階建で、1Fが事務所、2Fが食堂、3Fが倉庫兼社宅という構成、今回は1Fの事務所のレイアウト変更や面積拡張をしようと決めて、予算は無理ない範囲で出せる自己資金1000万円としました。
ところが、何件かオフィスデザインの会社さんに声掛けするも、あまり良い会話になりません。そもそも話も聞いてもらえない、打ち合わせ後に何度メールしても無視されるようなこともありました。会社に下見に来てもらっても「古いもの全部捨てるだけでも大変ですね」とため息をつかれるようなこともあり、そもそも自分がやろうとしていることが何か間違っているのではないかと不安になる一方でした。
問いから立て直してくれる真のパートナー

オフィスデザインについて体系的に理論立てて網羅された本というものはほとんどありません。自分自身もオフィスデザインについて全くの素人だったところからのスタートで、とにかく本を読み漁って他社見学に行ってと繰り返してはいたものの解像度が粗く、なかなか良いご縁に至らなかったのもそんな状態で各社に相談していた自分に責任があったのかもしれません。
しかし当時はそんなことを考える余裕もなく、誰も自分の言うことをわかってくれない、良い会社さんに出会えないと腐心しながら、なかなかパートナーに巡り会えない暗中模索の日々が続いていました。そんな中、たまたま以前から一縷のご縁があったコラボスタイルさんという会社さんが相談に乗ってくださるとのことで会社へ見に来て頂くことになりました。
現場を見た社長の松本さんから一言
「石川さん、本当に未来のことを考えるなら、全フロアやった方がいいよ」
衝撃でした。そもそも1000万円という制約条件は自分が作ったものだったはずなのに、そんなこともすっかり忘れて予算内で1フロアだけ改装することだけを目的としていた自分の狭窄的な考えに気付かされました。
コラボスタイルさんからのご提案は目から鱗のものが多く、捨てるしかないと他の会社さんに言われていた古い金庫も「絶対に玄関に飾りましょう!宝ですよこれは!」「2Fの方が面積も広いし光も入るのに昼の食堂としてしか1日1時間しか使わないなんてもったいない」と興奮気味におっしゃっていただいたのを覚えています。
この視点はただのクライアントワークではなく、「なぜこの人は事務所を改装したいのか?」という僕の想いに立脚して、問いの根源から一緒に寄り添って考えてくださる方だけが辿り着けるものなのではないかと確信して、コラボスタイルさんに正式にパートナーとしてオフィスデザインをお願いすることを決めました。
オフィスは誰のためのものか

オフィスデザインの意思決定は、社内でプロジェクトチームを立ち上げて進めていきました。メンバーは有志で募りながら、普段事務所を利用する機会が少ない製造や物流の人に多く入ってもらいました。
問題点として先述したものの一つに「工場のメンバーが入室しづらそう」というものがあったのですが、僕はずっと工場のメンバーが事務所に入室するときに扉をノックして「失礼します」と言いながら入るという慣習に猛烈な違和感を抱き続けていました。自分の会社なのに、なぜ?と。
結論的には、きっと「ここは自分の居場所じゃない」という感覚があったからだったと思うんですよね。工場と事務所という働く場所が分離していることもあって、製造業はそもそも仕事も人の関係も物理的に分断されがちです。「ノックなんてしなくていいですよ」と言っても誰もやめなかったのは、物理的以上に心理的な壁を表す行為だったのではないかと振り返って思うところです。
というわけで、新しい事務所では、ただ事務所のメンバーが使うだけではなく、工場のメンバーにとっても居心地がよく、自分の居場所だと感じられるような場所にしたいという想いで事務所以外のメンバーに多めに入ってもらって、工場のメンバーから見てどんなオフィスであってほしいかという意見も大事にしながら企画を進めていきました。
デザインにお金をかける意味とは何なのか

今回のリノベーションでは、今まで使っていたオフィス家具などはすべて処分して一新しました。もちろんリニューアル=生まれ変わる、という意思表明での意味もあるのですが、それよりも会社にいる人がデザインの美しさを身近に感じられる場所にしたかったというのがもう一つの目的です。
節約のことを考えると、今まで使っていた什器備品を流用した方が良いに決まってます。弊社の場合、机や棚だけでも総額で1000万円、天井を抜くだけで400万円、その他意匠に関してのコストを減らして機能に特化したオフィスをつくれば合計2000万円近くは節約できたのではないかと思います。
しかし、そのようなパッチワークでつくられるチグハグなオフィスで会社が生まれ変われるとは僕には感じられませんでした。トーン&マナーという概念があったり、素材やテクスチャーから静かに織りなす質感というものがあったり、そういった細部へのこだわりをおざなりにして出来合いのものを適当に組み合わせたところでデザインは担保できないという確信もあり、什器備品も含めてすべて一新することを決意しました。空間デザインについてそう簡単に言語化して説明しきれるようなものではありませんが、人も含めて調和がとれている空間にこそ居心地の良さは生まれるものですよね。デザインへの投資は絶対に妥協できないポイントでした。
実現したい組織のあり方に向けてやりたいことは全部やる

オフィスの改装にはお金がかかります。大事なことなのでもう一度言いますが、本当に想像以上にかかります(笑)。
それでも僕は、一ミリも妥協したくありませんでした。どれだけお金がかかったとしても、自分たちの信念に沿って正しいものをつくりたい、「宝物を託される人になろう」というビジョンの通り、大事な人生を会社に預けてくれる人にとって本当に良い場所になってほしい、そんな思いでできることは全部やりました。
例えば、弊社のオフィスは1,2Fの天井は抜いた状態になっているのですが、ただ天井を抜いて色を塗るだけでもワンフロア200万円弱かかっています。2フロアで合計400万円ですね。そんな大金をかけてまでやった理由は、「天井をなくしたかったから」です。もちろん、天井とは物理的な意味ではなく、メタファーとしての天井です。弊社は長年ワンマン経営の指示命令に従うことだけを指針として組織運営を行ってきた会社だったので、とにかく何かしら理由をつけて天井を決めてしまう文化がありました。「社長が言ったから」「怒られるといけないから」など、理由は様々ですが閉塞的で抑圧的な企業文化を物理的にも無くすという課題を、天井を抜くというデザインが解決してくれるのではないか、という願いを込めていました。

他にも、社長室や課長席みたいなものは一切無くしたり、事務所の扉自体を取っ払ってしまったり、色々と工夫しましたが、それもすべて今までの組織の歪みだったりとか壁となっていたようなことを、デザインの力で解決するために意思決定をしたものでした。
元々の予算は1000万円だったところ、やりたいこと全部やったら7000万円まで膨らんでしまいましたが、それでも構わず自分たちが実現したい未来を信じて、何一つ手抜きをすることなくフルベットするに至りました。
仕事も場所も自分で定義する新しい働き方

色んなこだわりはありながら、僕がこの新しいオフィスで一番実現したかったのは、「ここで働く人たちの生き方が拡張されること」でした。いつも通りの無機質な仕事机に座り、与えられた業務を遂行して、人生の楽しみは業務時間外に集約、仕事は苦痛と引き換えに生活費を稼ぐための場所だ、というような諦念に満ちた仕事観で生きていても、不本意な現実しかやってきません。古い中小企業だからとか、片田舎の製造業だからしょうがないとか、そうやって諦めるのはもう僕らの世代でやめにしたいです。自分の意志で問いを立てて、自分の意志で決めて、その行動にも責任を持つ、そういう働き方が実現できるようなオフィスのデザインを考えに考え抜きました。働く場所も、仕事の役割も、自分で定義してこそ。側島製罐のオフィスが、仕事を通じて自分軸で生きる力をつけられる場所になればと願ってやみません。
社員の人生に投資するのがオフィスづくりの真の意義

オフィスってなんだろうな、と自分で何度も問い直してみて改めて思うのは「オフィスは社員の大事な人生を預かる場所」ということでした。かっこよくてお洒落なベンチャー企業っぽいオフィスだったら、きっとデザイン会社さんにお願いしてコストをかけたらつくれますよね。でも、そこに社員の自分の居場所がなかったら、全然良いオフィスだとは言えないんじゃないかと思います。自分の居場所があって、日常に新しい発見があって、自分の生き方から問い直してチューニングできるような、そんな場所であってほしい。嘘偽りなく僕は心からそう願っています。会社は社会の公器、そこで働く人たちが、自分の意志で良い人生を歩むことができるようになれば、きっとそれが良い仕事になって、良い社会をつくっていく一歩になるのだと、信じてやみません。
SPECIAL THANKS!
(相談に載ってくださった方々、お祝いしてくださった皆様)
松本洋介さん
酒井拓哉さん
山本直之さん
小棚木志津香さん
藤井麻由さん
坂口大史くん
影山直毅さん
細尾正行さん
前川ひろみさん
白瀧迅さん
安田綾さん
金子香平さん
村岡健太さん
大川原佳奈さん
島英雄さん
木下雄輔さん
杉本悠輝さん
鶴見亮介さん
鳥原久資さん
鳥原裕史さん
鳥原由美さん
乗冨賢蔵さん
川久保健太郎さん
尾寅玄樹さん
小西慎太郎さん
前田理沙さん
白井実知子さん
喜井翔太郎さん
友安啓則さん
木村祥一郎さん
太田泰造さん
榎並幹也さん
千種純さん
大西里枝さん
前田健太郎さん
施工会社のみなさま
各オフィス什器メーカーのみなさま
弊社のプロジェクトチームのみんな

おまけ
1F Before





1F After





2F Before




2F After




3F Before






3F After



