野良猫の哲学
台風の朝だった。
診療時間前の医院に、傘を差して二番目に並んだ。
血液検査の結果が出ているので待っている。
風が吹くたびに傘は裏返りそうになり、雨粒が横から飛んでくる。
待つしかない時間というのは妙に長い。
そんな時、ふと野良猫のことを考えた。
野良猫には野良猫の哲学があるのではないか。
台風の/ 診療前に /並び待つ
血液の/ 結果を待つ /傘の音
雨嫌い /気温は好み /餌はなし/ それが哲学 /濡れ猫の朝
餌はない /雨脚の中 /濡れた猫
江戸時代の小噺には、人間の大げさな悩みを軽く笑い飛ばす話が多い。
人は明日のことを案じるが、猫は今日の飯を案じる。
そんな趣向の噺もあったという。
私が気にしているのは血液検査の数字である。
猫が気にしているのは今日の餌である。
どちらも当人にとっては大問題だ。
ただ、猫のほうが少しだけ話が簡単だ。
雨は嫌い。今くらいの気温は好き。
餌はない。
それだけで世界ができている。
医院の前で傘を握りながら、もしかすると哲学とは難しい理屈ではなく、自分にとって本当に大切なものを知ることなのかもしれないと思った。
その時、風が吹いて傘が大きく揺れた。
私は傘を押さえ直した。
野良猫が、雨を嫌がりながら横切った。
私は血液検査の結果を待ち、 猫は今日の餌を探している。
どちらも当人にとっては大事なことである。
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