煙に巻きますコンクラーベ

 19世紀頃まではローマ教皇が死去すると、教皇の秘書長にあたるカメルレンゴと呼ばれる枢機卿が銀のハンマーで教皇の額をそっとたたいた。洗礼名で数回呼びかけても反応がなかったら、死を認定していたという。©氏はなぜか、その即物的な死亡診断のやり方に感心する。教皇フランシスコが逝去した今回も、そのような方法をとってほしかった。銀のハンマーというのがいい。

 さて2025年4月21日、フランシスコが脳卒中と心不全で昇天したとたん、世界の耳目は次の教皇を選ぶ「コンクラーベ」に注がれることになった。同時にわが国では「根比べ」と掛け合わせるダジャレが連日連夜、列島中をあまねく駆け巡っていたはずだ。それについてダジャレの研究を生きがいとする©氏は、「根比べ自体は手垢のついた言葉だが、世界のカトリックの頂点に立つ人を決める選挙とほぼ同音であることによって、高級な言葉遊びと錯覚させる働きがあるのではないか。根比べという単語を持つ日本語を母語とする私たちは、神に祝福された民族かもしれない」と、にわかカトリック教徒的に分析した。

 さらに、こう付言した。

「コンクラーベがもめることによって、このダジャレのカウンターパートである根比べという日本語の強度が増す。ご存じのように、教皇が決まれば合図として、システィーナ礼拝堂の煙突から白い煙が出る。だが決まらなければ、黒い煙が出続ける。そうなると礼拝堂にこもった選挙の当事者たちはもちろん、密室選挙ゆえに好奇心を募らせる一般人も固唾を飲む。そんな時に一発、『こりゃ根比べだな』と発するといいだろう。その場合、急に何を言い出したのかを理解しない人もいるから『根比〜べ』と伸ばした方が無難だろうね」

 ©氏は「バチカンのシスティーナ礼拝堂くらい行ったことあるよ」とのこと。三十代でのスペイン長期旅行中、イタリアへ一時出国したらしい。ミラノのドゥオーモには苦い思い出があるそうだ。

「何ですか、その苦い思い出というのは」

「いや別に。もう忘れたな」

「忘れてないくせに」

「ここだけの話。バルセロナから夜行の国際列車でミラノに到着した。夏だったから車内では短パンで過ごし、そのままのかっこうでドゥオーモの敷地に入ったら、警備員に咎められちゃって。チノ(中国人)と呼ばれて、ブチ切れた。『俺は中国人じゃない、日本人だ』とスペイン語で、大声あげたさ。ちょっとした武勇伝かな」

「そういうの、武勇伝っていうんですか」

                         2025/04/23

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