#アマノ文筆クラブ【魔女刈り】
森の奥に、一人の魔女が住んでいた。
黒いローブに、とんがった帽子。
腰には大鎌をぶら下げている。
もっとも、彼女が使える魔法は一つだけだった。
空を飛ぶ魔法。
火も出せない。
雷も落とせない。
人を石に変えることもできない。
だから彼女は、大鎌を振った。
魔女というより、むしろ戦士だった。
ある日のこと。
魔女が森で薬草を摘んでいると、木々の間から一人の子供が駆けてきた。
「魔女さん! 助けて!」
息を切らし、必死の顔をしている。
「村にドラゴンが出たの!」
「ドラゴン?」
「お願い! 村のみんなを助けて!」
魔女は摘みかけの薬草を見つめ、それから子供を見た。
「……タダで?」
子供が首を傾げる。
「タダでは、だめなの?」
「もちろん。私は魔女だからね」
魔女は大鎌を肩に担いだ。
「お前の魂をもらおう」
「……うん」
子供は少し考えてから、頷いた。
「それで村を助けてくれるなら」
「契約成立だ」
魔女は子供を抱えて空へ飛び上がった。
*
村は炎に包まれていた。
家々は崩れ、逃げ惑う人々の頭上を巨大なドラゴンが旋回している。
ドラゴンが大きく息を吸った。
その口に、赤い光が集まる。
次の瞬間。
轟音とともに炎が吐き出された。
「させるか!」
空から黒い影が落ちてきた。
魔女だった。
大鎌を振り上げ、炎を切り裂く。
「な、なんだ、あれは!」
「魔女だ!」
「魔女がドラゴンと戦ってる!」
魔女は空を飛びながら、ドラゴンの背へと飛び移った。
大鎌を振るう。
一撃。
二撃。
三撃。
ドラゴンが咆哮する。
尾を振り回し、爪を突き立て、炎を吐く。
それでも魔女は飛び続けた。
魔法は一つしか使えない。
だからこそ、その一つを使い続けた。
飛ぶ。
斬る。
飛ぶ。
斬る。
そして最後の一撃。
大鎌がドラゴンの首を捉えた。
巨体が地響きを立てて倒れる。
静寂。
やがて、村から歓声が上がった。
「助かった!」
「ありがとう、魔女さん!」
「村を救ってくれてありがとう!」
魔女は大鎌についた血を払い、肩に担いだ。
「礼はいらないよ」
そして、辺りを見回す。
「ところで――」
先ほどの子供を探した。
だが、どこにもいない。
「おい」
魔女が呼ぶ。
すると、村の外れから子供が歩いてきた。
「ここにいたのか」
「うん」
「約束を守ってもらおう」
魔女が大鎌を構えた。
「お前の魂だ」
子供は黙って魔女を見上げた。
そして、嬉しそうに笑った。
「うん。約束したもんね」
魔女は鎌を振り上げる。
その瞬間、村人の一人が叫んだ。
「待って!」
魔女が振り返る。
「その子は……」
村人は震える手で、村の広場を指差した。
そこには、小さな布に包まれた遺体が置かれていた。
ドラゴンの襲撃で亡くなった子供。
魔女の隣に立っている子供と、同じ顔だった。
「その子は……もう……」
魔女は何も言わなかった。
ただ、隣にいる子供を見た。
「……そういうことか」
子供は笑った。
「だから、お願いしたんだ」
「自分の村を助けるために?」
「うん」
「自分が死んだことにも気づかずに?」
「……うん」
魔女は静かに大鎌を握り直した。
「なら、もう一つ約束を果たそう」
「え?」
「魂をもらうんじゃない」
魔女は鎌を振った。
刃は子供の身体を傷つけなかった。
ただ、その姿だけが淡い光になっていく。
「旅立たせるのさ」
子供は空を見上げた。
「……ありがとう、魔女さん」
「礼はいらないよ」
そう言って魔女は、消えていく子供を見送った。
やがて、森へ戻ろうと空を飛び上がる。
村人たちは、その背中を見つめていた。
誰かが呟いた。
「……あの人、本当に魔女なのかな」
魔女は振り返らなかった。
ただ、大鎌を肩に担いで飛んでいく。
今日も一人。
魂を――刈るために。
今回アマノ文筆クラブに初めて参加させていただきました。
甘野充様考えさせられるテーマをありがとうございます。
