【拝啓文芸部】昨日の私へ、謝っておく
昨日の私へ。
「それ、絶対に間違えてる!」
そう叫びたかった。けれどもちろん、声は届かない。
昨夜の私は、ディスプレイの明かりに照らされた顔で、どこか誇らしげにエンターキーを叩いていた。
無駄のない構成。完璧なロジック。
本人は「最高の文章」を書き上げたつもりで、満足そうにルイボスティーを飲み干し、そのまま床に就いたのだ。
だが朝、冷えた頭で読み返した瞬間、致命的な欠陥が牙を剥いた。
「……なんだ、これ。全然つながってないぞ」
昨日の私の、根拠のない自信。謎の全能感。
あのときの私は、これが正解だと信じて疑わなかった。
私は深くため息をつき、修正用のエディタを開いた。
「悪いけど、私が気持ちよく仕上げた文章、全部消すよ」
画面上の文字を全選択し、バックスペースキーを押す。
一瞬で消え去る、昨日の達成感。
でも、まあいい。
昨日の私が思いきり間違えてくれたおかげで、今日の私は、少しだけ正しい答えに近づけた。
昨日の私へ。
謝っておくよ。
努力は無駄になった。
でも、そのおかげで今日の私は、少しだけ賢くなれた。
そして、明日の私へ。
今夜もたぶん、同じことをする。
だから――先に謝っておくよ。
