見出し画像

生涯忘れられないマンガ「赤いリュックサック」 終戦記念日によせて

81回目の終戦記念日がやってきた。
この時期、私は必ずこの本を読む。
巴里夫先生の「赤いリュックサック」だ。小学校3年生の夏、「りぼん」の巻頭マンガとして、初めて読み、生涯忘れられない作品になった。

物語の舞台は、終戦直前の満州(現在の中国の東北部)。
8月9日に不可侵条約を破ったソ連が、満州になだれ込んだ。関東軍は勢力も弱く、日本市民を守る力もなく、当時160万あまりいたと言われる日本人が犠牲となった。

主人公は、小学生の陽子。
両親と三人で東満州で暮らしていたが、ソ連兵が襲ってくることが分かり、家を捨てて逃げだすことに。

幼い陽子にはまだ危機感がなく、赤いリュックサックに晴れ着や人形を詰めている。

公務員の父は一度職場にもどって、あとで母子と合流する予定だったが、ソ連軍の攻撃を受けて命を落とす。
一方、母と陽子は父が亡くなったことを知らぬまま、貨車に乗り込み南を目指す。屋根もない貨車で雨に降られ、昼は焼け付くように暑く、夜は凍り付く寒さにも耐える逃避行。

赤ん坊の鳴き声にも殺気立つ人たち

そんな中でも、陽子の母は泣く子に飴を分け与えたり、助け合いの精神を忘れない。
陽子の母はよく、目をつぶって富士山を見る。母にとって富士山は日本で暮らしていた幸せな思い出の象徴なのだ。満州育ちの陽子は、富士山を見た事がない。だからこそ、母は、何としても日本にかえって、陽子に富士山を見せてやりたいと願う。

貨車の中にも、敵の攻撃が。目の前で次々と人が射殺され、持ち物が奪われていく。
貨車から逃げ、歩いて南を目指す親子。その道には兵士の屍が転がる。
陽子は、兵士の亡骸に「いたかったでしょ」と、野の花を手向ける。
次々に人が殺され、病気の者、ケガをしたもの、年取ったものは見捨てられ死んでいく。
この世の地獄だ。

満州は、独立国という形を取りながらも、事実上は日本の支配下にあり、満州の国民は日本人に差別的な扱いを受け、過酷な労働を強いられていた。そのため、逃げる日本人に、これまでの恨みを晴らすように、満州人が襲い掛かかる。
また、食べ物と子どもの交換を持ちかける満州人、子どもを奪っていく満州ん人もいた。そんな中、食べ物の為に我が子を手放す日本人に、母子は地獄を見る。

そして、これ以上逃げる事もままならず、追い込まれる女子ども達。
ついには、日本女性として立派な最期をと、自決を迫られる。

母は「わが子を殺めるなどできない」と言うが、陽子は、「私死んでもいい」と言う。
死んだら目が見えなくなる。そうしたら、こんな地獄を見ずに済む。
それに、お母さんが後から来てくれるから怖くないと。

死の間際、わらべ歌を歌う母子。
母の持つ短剣に自ら飛び込む陽子。

そして、命がつきる瞬間。「富士山が見えるよ」と。

そして、短い生涯を閉じる陽子。

母はすぐに後を追うつもりが、助けられてしまい、残酷にも一人生き残ってしまう。チフスにかかり高熱で生死をさまよい、さらには、夫が亡くなった事も知らされ、気がくるってしまう。

母は、陽子をかたどったお地蔵さんを、富士山が良く見える場所に祀る。
そして、陽子が大好きだった赤いリュックサックを背負わせてやる。
ラストのページにこめた巴里夫先生の思いが胸に刺さる。

当時、8歳だった私は、このマンガが衝撃だった。作品を通じて、戦争の悲惨さを学び、二度と繰り返してはいけないと心に誓った。

そして、時は流れ、いまから十数年前。巴里夫先生の絶版本を復刻・通信販売する「巴里夫のマンガ伝承保存会」が立ち上がり、私は先生にファンレターを書いた。
私が子どもの頃、巴里夫先生は、りぼんの人気漫画家で、学園ドラマなどを手掛けていらした。憧れの憧れの存在である。

手紙には、小学校3年の時に「赤いリュックサック」を読んで、今もずっと心に残っている事。祖母から戦時中の話をいろいろ聞き、平和である事の大切さを学んできた事。
そして、ちびまる子ちゃんの脚本を書いている事(ちびまる子ちゃんは、先生が活躍された、りぼんに掲載されていたので)をしたためた。

すると、しばらくして先生から、手書きのお手紙と、赤いリュックサックを描いたハガキが届いた。
信じられなかった。天井人が自分の為に手紙を書いて下さるなんて…。嬉しいを通り越して、胸が震える思いだった。

「あなたも小生と同じ道を歩んでおられるよう。へこたれる事もおありでしょうが、がんばって歩み続けて下さい。あなただけにしか書けないこと、描けない世界が必ず立ち上がってくるはずです。ご健闘ください」

いまでも、手紙を読むと涙があふれる。

先生は2016年にその生涯を閉じられたが、先生が私に下さった温かな言葉はずっと消える事はない。だから私は、作品を通して、平和の大切さを訴え続けていきたいと思う。
これは、巴里夫先生との約束だ。


今日は終戦記念日。
戦争で亡くなった全ての人たちの冥福を、心から祈る。