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空の回想録 Les Mémoires du Ciel ㉖

秋Ⅶ 選択

 九月も終わろうとしている頃、倶楽部替えの時間が在った。前期と後期で違う倶楽部活動(正課)に入れるのだ。
 教室で、前から回されて来たざらに、後期入りたい倶楽部名を、第三希望まで書く。

 皆、それぞれ、授業中なのに、歩き回って仲の良い者と何処どこへ入るか相談している。

 信悟もそれに倣って、椅子を後ろに傾け、牧子にいてみる。
「よう、原田。オマエ、今度何に入るんだ?」
「別に何でもいいでしょ。」
「ふーん。」
そう言いながらも彼は、牧子が更紙を隠す前に、彼女が書いたものを見取っていた。
「俺は読書倶楽部にでも入ろーかなー。」

 り気無く自分の第一希望の倶楽部名を言うと、それを聞き付けて牧子は訊いた。
「えっ、読書倶楽部なんて在ったの?」
「前期は在ったはずだけど?」
「ふーん。」

 思わく通り、牧子は第一希望を消し、それを第二希望にした。信悟は前を向いている振りをして、彼女が第一希望を「読書倶楽部」と書き直すのを、横目で見ていた。
 信悟は、多分彼女が第一希望として書くだろう演劇倶楽部を、第二希望に書いていた。自分的にかなり演技力は有る方だと思っているし、以前から興味が有ったので、紙を配られたとき、迷わず、それを書いたのだ。
「なぁ、何倶楽部に入るんだよ、見せなよ。」
白々しく、机の上の牧子の手を退けて、その下に在る紙を見ようとする。
「いいぢゃない。」
「ぢゃ、俺の見るかい?」
 そう言って、自分の書いた紙を彼女の目の前に提げる。彼女は自分と全く同じように希望倶楽部名が書いてあるのを見て、少し驚いたようだ。信悟はその表情を読んで、まさか自分の予想通りに彼女が書くとは思っていなかったので、彼自身もいくらか驚いた。だが、彼はそんな表情は顔に出さない。逆に、彼女を揶揄からかいたいような、試したいような気分になった。
「何で君と同じ倶楽部名を書いたかわかる?」

 それを聞いて彼女は悟ったようだが、躊躇ためらいの色も見られる。ぐ口に出して言いそうだったが、何故なぜか言わなかった。
「何で?」
「さ~あ? 解ってるしょ?」
信悟は、口を横に少し引いて、笑い顔を作った。


「お、原田、金持ちだな。一枚ぐらい俺にくれ。」
放課後、牧子が赤い財布を開けて小銭を取っているところだった。その中身をのぞいたこういちが、冗談のように言った。
「いいわよ、はい。」
「え、本当かよ? 気前が良いなぁ。後で返せったって返さないからな。」
「そんなこと言わないわよ。」
「え、俺も欲しい。」
それを見ていた近藤たちも我先に言った。
「俺も。」
「俺も。」
「いいわよ、はい。」
牧子は何枚かの千円札をパっと宙へ投げた。
「寄越せ、それは俺んだ。」
牧子の足許あしもとにひらひらと舞い落ちる紙幣を、突っ張り連中は四つんいになって、浅ましくも我勝ちに拾おうと争った。

 信悟は、大枚を軽々しく他人にばらく牧子を、驚いて見ていた。
「あ、絹川君も欲しい? はい。」
彼女はた、同じ軽い乗りで紙幣を差し出したが、信悟はら棒に答えた。
「要らねぇよ。」
「え? 遠慮しなくても良いから。はい。」
「いいってば。しまえよ。大切な金だろ?」
「そぉ?」
 牧子は渋々とそれを元へ戻した。信悟には、彼女が何を考えているのか解らなかった。あんな大金を無造作に人にってしまうなんて。そして、自分をあんな連中と一緒にして欲しくなかった。

「あ、そうそ。そろそろの返事、あげなくっちゃね。」
突然話題が変わった。
「え? って何のこと?」

 「返事」という言葉で、直ぐに懸想文のことだとわかったが、装蒜とぼけて忘れた振りをする。何ヶ月も返事をくれないお返しだ。
「ん、もう。忘れちゃったの?」
自分で私に出しておいて、という非難が込められているようだった。
「何のことだっけ?」
よ、。」
って?」
よ。」
「だから、って何だ?。」
「もう!!」
徹底的に装蒜けてみせた。もっとも、これで余計に返事が遅れることは確かだろう。

 自分で出しておいて、忘れるはずが無いだろう? 今日くれるか、明日はくれるか、とずっと待ってたんだぞ。これぐらいはやらなくっちゃな。

 帰りしな、もう一度言ってみる。
「おい、って何だ?。」
よ!」

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