mustは「義務」なのに、なぜ「〜に違いない」にもなるのか?
mustには「義務」と「強い推量」がある。
英語を教えている人なら、これは当たり前の知識だと思います。
You must go home.
「あなたは家に帰らなければならない。」
He must be at home.
「彼は家にいるに違いない。」
では、なぜ同じ must が、「義務」と「推量」という一見まったく違う意味を表すのでしょうか。
「mustには①義務、②強い推量という意味があります」
で終わらせることもできます。でも、それでは結局、二つの意味を覚えただけです。
今回は、助動詞を「意味の一覧」ではなく、話し手が出来事にどのような態度を加えるかという「モダリティ」の視点から考えてみます。
ここが見えてくると、助動詞はバラバラな意味を暗記するものではなく、もう少し一貫した仕組みとして見えてきます。
前回アスペクトの話でした。
こちらもご一読ください。
3.3 モダリティ(Modality):「出来事に対する話者の心的態度を表す」
前節では、英語の時制と相について見てきた。時制は、出来事を「どこへ位置付けるか」を決めるシステムであり、相は、その出来事を「どのように捉えるか」を決めるシステムであった。
しかし、出来事を位置付け、捉えるだけでは終わらない。話し手は、その出来事に対して、自分がどのように考えているか、どの程度確信しているか、あるいは相手へどのような働きかけをしたいかという情報を加えることができる。
例えば、
He is at home.
という文は、「彼は家にいる」という出来事をそのまま述べている。一方、
He may be at home.
He must be at home.
ではどうだろう。どちらも「彼は家にいる」という出来事を表しているが、話し手はそこへ、「そうかもしれない」「そうに違いない」という自分の判断を加えている。
また、
You must go home.
では、「帰らなければならない」という義務を表している。
このように、出来事そのものではなく、それに対する話し手の立場や判断、あるいは行為の可能性・必要性を表す仕組みをモダリティ(Modality)という。
話者の心的態度を表す方法
モダリティは、助動詞だけで表されるものではない。例えば、
He is probably at home.
では、副詞 “probably”によって「たぶん家にいる」という推量を表している。また、
I think he is at home.
では、I think によって「私はそう思う」という判断を表している。
このように、話者の心的態度は、法助動詞だけでなく、副詞や様々な表現によっても表すことができる。本節では、語彙や慣用表現そのものではなく、英文法というシステムとしてモダリティを表す仕組みである法助動詞を中心に扱い、次節で仮定法について見ていく。
法(Mood)と法助動詞(Modal Auxiliary)は別の概念である
学校文法では、「法」と「法助動詞」の違いが明確に意識されることは少ない。「法」という概念そのものが前面に出る機会も少なく、法助動詞という名称もあまり意識されない。改めてこの2つの違いについて整理しておこう。
法(Mood)とは、文全体をどのような立場から述べるかを表す文法カテゴリーである。例えば、
直説法
命令法
仮定法
が法に当たる。
一方、法助動詞とは、
may
must
can
should
will
などの助動詞によって、話し手の判断・可能性・義務・許可などを表す仕組みである。どちらもモダリティを表すという点では共通しているが、
法は文全体の形式に関わるシステム
法助動詞は助動詞によってモダリティを表すシステム
という違いがある。
法助動詞には二つの用法がある
法助動詞には、大きく分けて二つの用法がある。
認識的用法(Epistemic)
根源的用法(Root)
同じ助動詞でも、この二つでは働きが大きく異なる。例えば、
He must be at home.
では、「彼は家にいるに違いない」と、話し手が推量している。一方、
You must go home.
「帰らなければならない」という義務を表している。どちらも must を用いているが、意味は大きく異なるのである。
認識的用法は話者指向、根源的用法は主語指向
この二つの違いは、モダリティが何に向けられているかを見ると理解しやすい。認識的用法では、話し手が出来事全体について判断や推量を述べている。例えば、
He may be busy.
この文で may が表しているのは、「彼が忙しい」という内容そのものではなく、その内容がどの程度あり得ると話し手が判断しているかである。
通常、判断の主体は話し手であるため、本書ではこの用法を話者指向として整理する。一方、
You must finish your homework.
では、義務が課されているのは you である。また、
You can go home now.
では、許可を受けるのも you である。つまり、根源的用法では、義務・許可・能力などが、主語の行為や状態に直接関わっている。義務を負うのも、許可を受けるのも、能力を持つのも、文の主語である。そのため、本書ではこれを主語指向として整理する。
まとめると、次のようになる。

話し手の態度は丁寧さにも表れる
これまで見てきた認識的用法・根源的用法はいずれも出来事との関係を表すモダリティであった。しかし、モダリティは、出来事に対する判断や可能性だけでなく、聞き手に対する話し手の態度にも現れる。
Will you open the window?
Would you open the window?
どちらも「窓を開けてくれますか」という依頼である。しかし、would の方が、依頼をより控えめに伝える響きをもつ。同様に、
Can you help me?
Could you help me?
でも、could の方がより丁寧な依頼として受け取られることが多い。
ここで重要なのは、would や could が単なる will や can の過去形として使われているわけではないということである。英語では過去形の形式が、時間的な過去だけでなく、断定を和らげたり、聞き手との心理的な距離を置いたりする働きをもつことがある。その結果、より控えめで丁寧な表現として用いられる。
このように、助動詞は出来事そのものを表すだけではない。話し手がその出来事をどのような態度で述べるか、そして聞き手にどのような姿勢で伝えるかまで表現しているのである。
法助動詞と完了相
認識的用法では、過去の出来事について現在から推量することもできる。例えば、
He must have left.
では、「彼は出発したに違いない」と推量している。
ここで重要なのは、must が表しているのは推量であり、have left が表しているのは完了相であるということである。前節で見たように、完了相とは「基準時から出来事を振り返る見方」であった。
過去の出来事:he left
↓
完了相:現在から振り返る
↓
法助動詞:その内容を「そうに違いない」と判断する
↓
He must have left.
この文では、
「完了相によって過去の出来事を現在から振り返る操作」と、
「法助動詞によってその内容を判断する操作」
が組み合わさっている。
同様に、
He may have forgotten.
も、「忘れたかもしれない」と、過去の出来事を現在から推量している。
このように、法助動詞と完了相は、それぞれ異なる役割を持ちながら組み合わさることで、より細かな意味を表現しているのである。
ここまでの整理
ここまで見てきたように、モダリティとは、出来事に対する話し手の立場や判断、あるいは行為の可能性・必要性を表すシステムである。
法助動詞には、
認識的用法(話者指向)
根源的用法(主語指向)
という二つの基本的な用法がある。また、認識的用法では、完了相と組み合わせることで、現在という基準から過去の出来事について推量することもできる。
ここまで第 3 章では、
時制: 出来事をどこへ位置付けるか
相: 出来事をどのように捉える
モダリティ: その出来事に対してどのような心的態度を示すか
という三つの認知操作を見てきた。英語話者は、まず出来事を時間の中へ位置付け、次にその出来事をどのように捉えるかを決め、最後にその出来事に対する心的態度を加えることで、より精密な意味を表現しているのである。
英語話者の認知操作を整理すると、次のようになる。
出来事
↓
位置付ける(時制)
↓
捉える(相)
↓
心的態度を加える(モダリティ)
↓
英文として出力
このように、英語話者は出来事を単に表現するのではなく、
「位置付ける」
「捉える」
「心的態度を加える」
という三段階の認知操作を経て、英文として表現している。この過程は、実際の発話時に一段ずつ意識的に行われるという意味ではない。本書では、英文に組み込まれている情報を理解するための認知モデルとして、三つの操作に整理している。
次節では、同じくモダリティに関わる文法システムの一つ、仮定法について考えていく。
次回いよいよ仮定法です。
