Vol.55 健診はスケジュールに余裕をもって受けよう
先日来、「人間ドックの価値の本質の一つは結果説明にある」と述べてきましたが、結果説明はもとより、結果を受けてどう行動するかが大事であることは、賢明な読者の皆さんであれば当然だと思われることでしょう……と信じているのですが、健診の現場にいると、必ずしもそうではないのです。
「来週から海外赴任なので、今日健診を受けに来ました」
海外に赴任する方が、出発の直前に健診を受けに来る、ということがよくあります。しかしそれが多くの場合、「1週間後にはもう出国します」というような、本当にギリギリのタイミングなのです。驚くことに、海外へ社員を派遣する会社の多くが、こうした「直前の健診」を当たり前のように行っているのです。
念のため、これは受診する本人の問題ではありません。ほとんどの場合、会社の指示で受けに来ているので、これは会社側の、制度の作り方の問題だと思っています。ご本人は、言われたとおりに、まじめに受けに来ているだけなのです。
それでも、私はこうした場面で、少し残念な気持ちになります。なぜなら、その健診は、本来の目的をほとんど果たせないからです。
健診は、受けた瞬間に終わるものではない
ここに、健診というものの、最も大事な勘違いがあります。多くの人が、「健診を受けること」をゴールだと思っています。でも、実際には違います。健診は、スタートなのです。
考えてみてください。健診の目的は、病気の兆候を早く見つけることです。では、何か引っかかったら、どうなるか。多くの場合、そこから精密検査が必要になります。そして精密検査で本当に病気が見つかれば、今度は治療が始まります。つまり健診とは、「見つける→詳しく調べる→治療する」という一連の流れの、いちばん最初の入り口にすぎないのです。この流れ全体には、数週間から、ものによっては何ヶ月もかかります。
ここで、出国直前の健診に戻りましょう。1週間後に海外へ発つ人が、今日健診を受けて、もし異常が見つかったら、どうなるでしょうか。精密検査をする時間も、ましてや治療をする時間も、ありません。見つけたところで、何も対応できないまま、出国することになる。これでは、何のために受けたのか分かりません。
さらに言えば、結果が出るタイミングの問題もあります。設備の整った人間ドックなら、主要な結果はその日のうちに説明される、ということになってはいます。ですが、それすら徹底されていない施設も現実にはあります。多くの一般的な健診では、結果が郵送で届くのは数週間後です。出国直前に受けても、そもそも結果を受け取る前に、日本を発ってしまうことすらあるのです。
「直前の最終チェック」なら、話は分かる
誤解のないように言えば、「直前の健診」がすべて無意味だと言いたいわけではありません。
もし、毎年の定期健診をきちんと受けていて、その上で、出国前の最終確認として追加でチェックするのであれば、それは十分に意味があります。普段の健康状態が分かっている人が、念のため直前に確認する——これは理にかなっています。
問題なのは、普段は受けていない人が、「赴任が決まったから」と、その一回きりの健診で済ませようとすることです。これでは、健診を「受けたという事実」を作るためだけの儀式になってしまっています。
「受けること」が目的化していないか
この海外赴任の例は、実はもっと広い問題の縮図です。健診を「受けること」自体が目的になってしまい、「受けた後にどうするか」が抜け落ちている——これは、海外赴任に限った話ではありません。
毎年健診を受けているのに、結果票をろくに見ない人。再検査の通知が来ても、忙しいからと放置してしまう人。「去年も同じ指摘をされたけれど、まあ大丈夫だろう」と、毎年同じ所見を見送り続ける人。
これらはすべて、「受けること」がゴールになり、「引っかかってから」のアクションが抜けている例です。健診で異常を指摘されることは、ゴールテープではなく、スタートの号砲なのです。
受ける前に、その先を考える
健診を受けるなら、ぜひ一度、その先まで想像してみてください。もしこの健診で何か引っかかったら、自分はそれを精密検査し、必要なら治療する時間と段取りがあるだろうか、と。
その答えが「ない」のであれば、そのタイミングでの健診は、見直したほうがいいのかもしれません。健診は、受けた瞬間に安心を得るためのものではなく、見つかった問題に対処するための、長い道のりの入り口です。引っかかってからが、本番。その心づもりがあるかどうかで、健診の価値は大きく変わります。
*noteの記事の内容は筆者の個人としての見解です。筆者所属の医療機関の見解とは一切関係ありません。内容の正確性には細心の注意を払っておりますが、万が一不適切な内容がございましたらご指摘いただけましたら幸いです。
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