見出し画像

37℃で寝込む僕と、熱を測らないことで無効化する妻【Day 11】

【これまでのあらすじ】 4年前の金銭トラブルで妻への信頼を失った僕。 再構築のために「妻を同僚になる」ことを目指しています。
▶第1話から読む(妻と「同僚」になることを目指した理由

僕は体調不良にめっぽう弱いです。 体温計が37℃を超えると、それを見た瞬間に脳が「僕は病人です」と認識し、頭がクラクラし(た気になって)、布団に崩れ落ちます。

我が家の「医療データ」に対するスタンスの違いが、最も顕著に現れたのがコロナワクチンの接種でした。

完璧なリスク管理と、昭和のドラマ

コロナ禍の頃、テレビではコロナワクチンの副反応がさかんに報道されていました。発熱する方、動けなくなる方、副反応で入院してしまう方、テレビで放送されるケースはセンセーショナルなものばかりです。

そこまでではないにしても、リスク管理の観点から、夫婦の接種日は分ける必要があります。 副反応で両親が同時に倒れ、家庭機能が麻痺する事態を避けるためです。

僕はまずはリビングにある「ファミリーカレンダー」を確認しました。 妻のシフトが入っていない日、つまり「僕が機能停止しても、妻という代替リソースが確実に稼働できる日」をXデーに設定しました。

そして、妻にはLINEで以下の「業務連絡」を通達します。

【通達】 僕は〇月〇日にワクチンを打ちます。
【要請1】 リスク分散のため、同日の接種は避けてください。
【要請2】 当日から翌日にかけ、当方は発熱により機能停止する見込みです。家事育児はすべてお願いします。

さらに、ゼリー飲料を2日分備蓄し、子供たちにも「明日から2日間、お父さんは廃人になります」と周知徹底しました。

そして迎えたワクチン接種の日。当日の夜から僕は38℃前半の熱を出しました。 もうダメです。身体中の関節が痛み、指一本動かせません。 僕は布団の中で、「昭和のドラマで不治の病に伏せる主人公」のように、虚ろな目で天井を見つめていました。

「お父さん、大丈夫……? お茶飲む?」 「ゼリー持ってくる?」

心配そうに覗き込む子供たち。 僕は「うう……ありがとう……」と、今生の別れのような声で答えます。 完全に、か弱い「守られるべき存在」です。

計測しなければ、熱は存在しない

数週間後、妻の接種日が来ました。 僕があれだけ苦しんだのです。当然、彼女も寝込むだろうと想定し、僕はワンオペを覚悟しました。

しかし、彼女は異常でした。 接種当日はもちろん、翌日になっても、リビングで普通にウロウロしています。 家事をし、ご飯を食べています。

僕の惨状を知っていた子供たちが、不思議そうに妻に聞きました。 「お母さんは熱出ないの?」

妻は、平然と答えました。

「どうだろ? あるかもだけど、計ってもし『ある』って分かったら嫌だから、計ってない」

僕はキッチンで耳を疑いました。 彼女は「計測」を拒否することで、発熱という「事実」を無効化したのです。

シュレーディンガーの猫ならぬ、「ツマジンガーの熱」です。

箱(体温計)を開けなければ、熱がある状態とない状態が重なり合っている

そして彼女は気合いで「ない状態」を確定させているのです。

サバンナのライオン

その姿を見て、僕は思いました。 ああ、この人は「サバンナのライオン」なのだ、と。

妻ですが、オスライオンのイメージです

野生動物は、天敵に狙われないよう、手負いの傷を隠します。 どんなに具合が悪くても、平気な顔をして群れの中を歩きます。 彼女もまた、本能レベルで弱みを見せることを拒否しているのでしょう。

それに引き換え、カレンダーを確認し、LINEで根回しし、準備万端で挑んだにも関わらず、37.5℃の数字を見ただけで「もうダメだ〜」と大騒ぎした僕の、なんとひ弱で文明化されすぎていることか。

野生動物として強いのは、間違いなく妻です。 もしゾンビパニックが起きたり、無人島に漂着したりしたら、最初に死ぬのは僕で、最後まで生き残り、野草を煮込んでスパイス料理を食べているのは彼女でしょう。

僕は彼女の強靭な背中を見ながら、人間としての敗北感を噛み締めるのでした。

いいなと思ったら応援しよう!