妻が鍵をかけずに出かける。理由を聞いて絶句した【Day 10】
【これまでのあらすじ】 4年前の金銭トラブルで妻への信頼を失った僕。 再構築のために「妻を同僚になる」ことを目指しています。
▶第1話から読む(妻と「同僚」になることを目指した理由)
ある日の夕方、僕が一人で買い物から帰宅したときのことです。 マンションの自宅の前に立ち、ポケットから鍵を取り出そうとして、違和感を覚えました。
ドアノブに手をかけると、ガチャリと回ったのです。 鍵が開いています。

背筋が凍りました。 今日は仕事やら学校やらで僕以外は出かけていて、僕だけがひとりで在宅勤務をしていました。そして、買い物のために家を出て、戻ってきたところなのです。 家には誰もいないはずです。 出かけるとき、僕は間違いなく施錠しました。指差し確認もした記憶があります。
ということは、空き巣? いや、強盗か?
僕は買い物袋を足元に置き、息を潜めました。 もし鉢合わせたらどうする。逃げるべきか、戦うべきか。 心臓の音が鼓膜を叩くのを感じながら、僕はそっとドアを開け、家の中を覗き込みました。
「……誰かいるのか?」
返事はありません。 僕は忍び足でリビングへ進み、各部屋を確認しました。 幸い、荒らされた形跡はありません。通帳も印鑑も無事です。
「僕の締め忘れか……?」
あれほど確認したはずなのに。 僕の記憶力もいよいよ焼きが回ったのかと、キッチンで水を飲みながら呆然としていました。
犯人の帰還
そのとき、玄関が開く音がしました。 ビクッとして身構えると、汗だくの妻が入ってきました。
「ただいまー! いやー、走った走った!」
彼女はジョギングウェア姿でした。 どうやら僕が買い物に行っている間に仕事から帰宅し、また走りに出たようです。
「……あの、鍵、開いてたんですけど」
僕が言うと、彼女はタオルで汗を拭きながら、悪びれもせずに言いました。
「あ、うん。私が開けたまんまで行ったから」
僕は耳を疑いました。 ここは東京です。玄関を開けっ放しで外出するなんて正気の沙汰ではありません。
「なんで? 泥棒が入ったらどうするの!」
僕が詰め寄ると、彼女はキョトンとして、信じられない理由を口にしました。
「だって、鍵持って走ると邪魔じゃん? 重いし、チャリチャリ鳴るし」
思考が停止しました。
「え……それだけ?」 「うん。 」
彼女の論理はこうです。
ジョギングにおいて、鍵という数十グラムの物体は「余計な荷物」である。
だから鍵は持っていきたくない。
解決策:鍵をかけずに出ていけばいい。
(狂ってる……)
僕は慄きました。 彼女は「家のセキュリティ」よりも、「走る時のわずかな快適さ」を優先したのです。 その天秤の傾き方は僕には理解不能です。
「大丈夫だよ、日本だよ? うちになんて誰も入ってこないって」
彼女は冷蔵庫から麦茶を出して飲んでいます。 その根拠のない自信は、彼女の実家(田舎)では「近所の人が勝手に入ってお茶を飲んでいる」というオープンな環境で育ったことに起因するのでしょう。
しかし、ここはコンクリートジャングル東京です。 隣人の顔も知らないこの街で、その「性善説」は命取りになります。
「次からは絶対に鍵を持って行ってください。アームバンドとか買えばいいでしょ。」 「え〜、面倒くさいな」
不満げな妻。 彼女は、僕がなぜこんなに怒っているのか、本質的には理解していません。
彼女にとって家は「守るべき城」ではなく、「ただの巣」なのです。 野生動物が巣穴に鍵をかけないように、彼女もまた、自然体で生きているだけなのかもしれません。
僕はAmazonで、超軽量のランニングポーチをポチりました。 物理的な解決策(道具)を与えない限り、彼女はこのセキュリティホールを埋める気がないからです。
