クリスマスの朝、Amazonの箱がそのまま置いてあった【Day 13】
【これまでのあらすじ】 4年前の金銭トラブルで妻への信頼を失った僕。 再構築のために「妻を同僚になる」ことを目指しています。
▶第1話から読む(妻と「同僚」になることを目指した理由)
12月に入り、街がクリスマスムード一色になると、僕はふと5年前の出来事を思い出します。 まだ例の事件(借金発覚)が起きる前。家族の仲が良く、僕が妻の「業務遂行能力」をまだ信じていた頃の話です。
当時、長男は小学生、次男はまだ保育園に通っていました。 クリスマスの数週間前、子供たちがサンタさんにお願いするおもちゃが決まりました。 あとは手配(調達)のみです。
「今年は私がやっておくよ! ネットで安いの見つけたいし」
妻が自信満々に手を挙げました。 子供のイベント事は好きなので、任せても大丈夫でしょう。
物流センター直結の朝
クリスマスイブの夜。 子供たちはソワソワして眠れません。 「早く寝ないとサンタさん来ないぞ〜」 僕は子供たちと並んで横になり、トントンと背中を叩きながら寝かしつけをし……そのまま自分も寝落ちしてしまいました。
翌朝。 「パパ! 見て! サンタさん来た!!」 次男の興奮した声で叩き起こされました。
「お、来たか!」 僕は寝ぼけ眼をこすりながら、スマホで感動の瞬間を撮影すべく、リビングへ向かいました。 ツリーの下に置かれた、色とりどりのラッピング袋。それを開ける子供たちの歓声。 そんな「幸せな朝の画」を想像していました。
しかし、食卓のテーブルの上に置かれていたのは、想像を絶する物体でした。

「Amazon.co.jp」
あの見慣れた「笑顔の矢印ロゴ」が入った茶色い段ボール箱が2つ、無造作に、本当に「ドン」という効果音が聞こえる感じで置かれていたのです。 ラッピング? ありません。 メッセージカード? ありません。 そこにあるのは、剥き出しの「物流」でした。
長男の忖度
「うわー! おもちゃだー!」 次男はまだ幼かったので、箱が何であろうと中身があれば大喜びです。バリバリとガムテープを剥がし始めました。
しかし、長男は違いました。 彼は、テーブルの上の「Amazonの箱」を見つめ、次に「寝癖頭で固まっている僕」を見つめ、最後に「キッチンから満足そうに眺めている妻」を見つめました。 数秒の沈黙。彼の脳内で、点と点が線に繋がっていくのが見えました。
そして彼は、僕の方を見て、困ったように笑いました。 「……サンタさん、届けてくれたんだね」
その目は完全に「大人の目」でした。 彼は全てを察し、その上で「サンタの魔法」という設定を守るために、話を合わせてくれたのです。
サンタクロースのDX
その後、僕はこっそりと妻を洗面所に呼び出し、抗議しました。
「なんでAmazonの箱のままなの!? せめて出して、100均の袋に入れるとかさぁ! 夢がないでしょ!」
すると妻は、キョトンとして言いました。
「え? なんで? 中身は頼んだおもちゃだよ?」 「いや、サンタさんが持ってきたっていう演出が……」 「サンタだってAmazonでおもちゃ買うでしょ。 いちいちおもちゃ屋に並ぶわけないよ。」
彼女の主張はこうです。 現代のサンタは、トナカイで空を飛ぶのではなく、物流ネットワークを駆使してラストワンマイルを攻略しているのだ、と。 まさかの、サンタ業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)宣言でした。
「それに、箱のままの方が開けるワクワク感あるじゃん」 「それは開封動画の見過ぎだ」
新たな運用ルール
反論する気力も失せ、僕はリビングに戻りました。 長男は、弟に合わせて「やったー、これ欲しかったんだー」とAmazonの箱からおもちゃを取り出していました。 その横顔が、やけに大人びて見えました。
あれから5年。
中学生になった長男は、もうサンタクロースという「設定」には付き合ってくれません。クリスマスプレゼントに欲しいものがあると、僕のLINEにAmazonの商品リンクを送りつけ、こう聞いてきます。
「いつ届く?」
我が家のサンタクロースは、完全に「調達・物流部門」として定着しました。妻のDX改革は、正しかったのかもしれません。
