練習中編小説②ー5
4章
1節
「この手記を読む限り、初めから術者も含めて『全て』を犠牲にして聖杯を鋳造する様になっている。術者が居なくなったせいで制御が効かなくなっているのが現状だ」
Ⅱ世先生に解説してもらったが、わかった部分というのはこのあたりぐらいだった。
「先生。船長が騙されたのは分かりましたけど、あの鳥は何でしょうか?」
「君の夢と合わせて考えると、我々魔術師だろう。君もライネスやムジーク氏のように魔術師の多くが上流階級であることを知っているだろう?
これほどの規模を後援者無しに資金を集めることなど余程の富裕層でもない限り不可能だ。資金を集める際に船体の説明なども行われるし、血族が経営する会社から情報を得ることだって出来るだろう。
それらの情報から儀式が行われると算段を付けて乗船し、簒奪しようとしても全くおかしくない。実際に聖杯顕現地を抑えられているだろう?」
「うむ!素晴らしい解説だ!あのバラバラな情報からここまで理解するとは天晴である」
ジャラジャラと鎖を鳴らしながら、魚の様に跳ねている鳥の被り物をしたおじさんが元気に大声で会話に参加してきた。
待って、エルキドゥ!待って!無言で穂先を彼に向けないで!心底嫌がらないで!
デオンもこの人と絡みたくないのか、俺の側で無言に徹している。それでも鳥の人が話す度に顔には疲労感が増していってるようだった。
アヴィ先生は俺たちの風除け用に並べているゴーレムを調整中だ。いや、これは何かやっているように見せかけて会話から逃げている。チラチラとこちらを気にしているから間違いないはずだ。
何で天井口にこの鳥男はいたんだろうか?
2節
ジャラジャラジャラ!!!!
エルキドゥが天井口から外へ出たと思ったら、姿が見えなくなり大量の金属が擦れる音が響いてきたのだった。
「どうしたの?まさか敵がいたの?!」
俺は驚いてエルキドゥに呼び掛けるけど、天井自体が高いのと金属音に阻まれて声が届いていない。どうしよう、デオンもアヴィケブロンも飛べない。
「•••、アヴィケブロン。私を飛ばしてくれ!」
「!?、わかった!調整する!」
「必要だったらいつでも言って!」
僅かな時間でアヴィケブロンがゴーレムの調整を終えて、デオンを打ち上げる体勢が整った。
「では、発射する。3、2、1、ゴー!」
ゴーレムの組まれた掌に足を掛け、そのまま打ち上げられたデオンが天上口へ向かって飛んでいく。
『よし、上手く届いた』
少しズレたが剣を天井に突き刺し軌道修正することで天井口へ這い出ることができた。
そこでは鳥の着ぐるみを着た男と無表情のエルキドゥによる空中戦が繰り広げられていた。あまりの激しさに海面が激しく波立っている。
『確認後マスターに彼/彼女の無事を伝えようと思っていたが。この衝撃では身動きすら危ういな』
デオンが屋上に身を伏せ逡巡していたが、ふと音も波も静まっているのに気付いた。
気付いた瞬間に跳ね起き、周囲を警戒した。
エルキドゥが鳥男とデオンの間で警戒しながら立っていた。
「エルキドゥ、見たところ負傷していないようだが、怪我はないかい?」
「心配させたようだね。僕は破損していないから性能に問題はないよ」
「ああ!何とも楽しい試合だった!互いの魂の高鳴りをッ!ヌヲっ!」
エルキドゥの表情は見えないが多分さっきと同じように無表情だろ予想出来た。
いつも穏やかな表情を崩さないエルキドゥがイシュタル以外でここまで攻撃的になるのは滅多にない。
無言で攻撃を続けるエルキドゥを説得して、鳥男を捕らえてからマスター達を天井口より屋上へ引き上げることにした。
デオンが自身のスキルを使って鳥男の隙を作ったが、何とも言えない気分で簀巻きにされている彼を監視している。
簀巻きにされながらもかなり元気で、魚のように跳ねている。
俺が屋上に上がって見たものは、悲痛な顔のデオンとその足元に居る簀巻きの鳥おじさんとそのおじさんに鎖を飛ばそうとするエルキドゥ、それから黄昏ているアヴィ先生だった。
うーん、とりあえず戦闘はなさそうだらか、ヨシ!
3節
「ところで、あなたはなぜここにいるのだろうか?その出立から鷲の戦士であるのはわかっている。『鷲の戦士』はアステカ文明におけるジャガーマンと並ぶ戦士だ。となれば、ここにいるのはジャガーマンの差金かな?」
エルメロイⅡ世先生が簀巻きにされている着ぐるみの男に向かって質問している。いつもの解説の時より言葉の裏に冷たいものを感じた。ライネス師匠が政治の話をする時と少し似ていて兄妹だな、と場違いな感想が頭に浮かんでいた。
「そうである。我々としても儀式に便乗した魔術師による横槍のせいで、さらに歪になってしまったこの状態を正したい。そのためには、あの鳥達を何とかしなくてはならないのだ。三代目では空を飛ぶことは出来ない上、今動けない状況となっている。
という訳で、君たちにあの鳥達をどうにかしてもらいたいのだ。」
思った以上に落ち着いて返答してきて少し驚いてしまった。
疑問はまだ残っているので質問を続けた。
「(三代目?)協力してくれるのはわかったけど、鷲さん(?)が屋上にいたのはどうしてですか?」
「うむ!高いからである!」
嘘だ!!絶対に嘘だ!騙されるのは沖田ちゃんぐらいだよ!
他のみんなも白い目で鷲さんを見ている。本人は意に介してないように呑気な様子だ。
「この船内全体が生贄の儀式の祭壇のようなものになっている。取り込まれない為にも船外で召喚する必要があったのだろう。さらには、あの鳥達が神性を獲得していて呪いを自動発動しているんじゃないか?
落ち着きなさい、マシュ。先ほどバイタルチェックを行なって問題はなかっただろう?話を戻すと、ここで問題になるのはマスターではなく、」
「ああそうだね、僕だね」
先生の解説を遮るかたちでエルキドゥがどこか諦めた感じで言い放った。
4節
エルキドゥは神の呪いによって死ぬことになってしまった。
「だから僕を身代わりにしたら良い。上手く使って欲しい、マスター」
彼/彼女は淡々とただ当たり前のように犠牲にしろと提案した。
それに対して俺は反射的に反発しようとしたけど、デオンに止められてしまった。
「デオン!!!」
「落ち着いて、マスター。教授の説明もまだ途中じゃないか。エルキドゥ先走りすぎだ、誰も君を犠牲になんて言っていないだろう?」
「うっ、恥ずかしい。デオン、教授、ごめんなさい」
「そうだね、どうやら僕も悲観的になっていたようだ。悪かったね」
「落ち着いたかね。では、まずは情報をまとめよう」
教授曰く。
①この儀式そのものは不完全であった
②船内を神殿として扱い、乗船員全てを犠牲にして聖杯を鋳造する予定だった
③神殿化する過程で船内が擬似的に神代になっていっていた
④乗船員もそれに合わせて変状していった
⑤魔術師が介入したせいで儀式が不安定になっていった
⑥取り敢えず臭い物に蓋をする、として船体を覆っている
ゴーレムや悪霊が船体を傷つけるのを警戒しているのはこういうことらしい。
船室が迷路みたいになっているのは、儀式の影響を外に出さないためという。
「災いを外に出さない為に複雑な迷路を作る。ダイダロスの迷宮を考えてくれたら良い」
アステリオスの悲しそうな顔が浮かんだので、ノーコメントとさせて下さい。
「それで鷹さん、どうやって俺たちを助けてくれるんですか?」
「うむ、この度は特別に死の呪いが効かない加護を頂いている。これをもって我が引き受けている間に一網打尽してほしい」
「ほう、ではやはりこの儀式はアステカの神、テスカトリポカ神に捧げられる予定だったのか。だからジャガーマンや君が動いているのかな?」
「•••」
教授が鷹の戦士に確認すると今までの喧騒が嘘のように静かになってしまった。
顔が見えないが、気配だけは一気に冷たくなったのは感じた。
デオンが剣を抜いて俺の前に立って、戦士を簀巻きにしている鎖に魔力を巡らせ、アヴィケブロンがゴーレムで戦士を抑えようと動き出した。
「で、あれば何とするのだ?カルデアのマスターよ」
冷たい洞窟の奥から響いてくるような声で質問してきた。
教授の解体癖は本当に困ったもので、どうしてこう怒らせることばかり言うのだろうか。
軽く現実逃避してしまったけど、答えは決まっている。
「頼もしいよ。よろしくお願いします、鷹の戦士」
「━━、鷹さんでかまわないよ。鎖を解いてくれないかな?」
喧騒さも剣呑さも無くなって、気さくな雰囲気で答えてくれた。
鎖も解けて、立ち上がると俺よりも高かった。顔は着ぐるみのせいで口元しか見えなかったけど、人好きする雰囲気のする人だった。
そして右手を差し出してきたので俺も右手を出して握手をした。
こうして鷹さんと仮契約を結ぶことになった。
あとがき
長かった。
一回休むと気力回復まで時間がかかってしまう。
さあさあ、オリキャラが出てきました。面倒が増えました。
しかも次は戦闘シーン盛りだくさんになっていきます。
ムッず、どうしよう(泣)
これから予定しているのもが、さらに膨らんできている。
やだぁ、やりたい事ばかりが増えるのに、気力は駄々下がりだわ。
とにかく頑張れ、次の日の私!
全部君に投げやる!
