後傾より前傾の方がマシ!|フォークリフト運転技能講習レポ
私がフォークリフトの免許を持っていたら面白いなと思い、免許をとってきた。
仕事で必要ということもなく、ただ運転できたらかっこいいから。
あと、使わないのに履歴書に書いてあったら意味がわからなくて面白いから。
動機はこの2つである。
学科(1日目)
▍死亡事故から始まる授業
初っ端から死亡事故事例を多数解説され、普通にビビる。
「フォークリフトは正しく乗らないと危険な乗り物」だと伝えたいあまり、まず恐怖を植え付けようとする講師。怖い。
なんでも、講師の言葉を借りれば「フォークは2、3時間マンツーマンで教えてもらったらすぐできるようになっちゃう」らしく、現に無免許で乗り回している人も珍しくないそう。
正しい知識をつけないまま運転してしまうせいで、悲しい事故が後を絶たない。
そう聞くと、緊張感は持ち過ぎなくらいでちょうどいいなと思った。
▍知識として普通に面白い
全然知らないことを学ぶので、面白かった。
何言ってるかわからなくてどうしても退屈な時間はあるが、それでも新しい知識には「ほーん」と唸る。
逆に、力学の章で「力のつり合い」という単語が出てきたときには「うーわ、なんか昔習ったなこんなん…」と、思いがけない方向からノスタルジーを感じる羽目になった。まさかここで物理が繋がるとは思わなかった。
自分がないがしろにしてきた知識は、間違いなくこの世界を構成している。
それを理解するのを避けてきただけで。
▍信じられないほどのお膳立て
合格率を見ればわかるが、この免許は落とす免許ではなく取らせる免許なので、講師が信じられないくらい丁寧に試験対策をしてくれる。
「はい、ここ線引いて!」
「これだけは覚えて!!」
「例えば、『~な場合、~ではない』って問題が出たら、バツですよ!!」
など、対策という対策をとらせてくれる。
「ここ試験に出るよ!!」と先生が言った瞬間みんながアンダーラインを引き始める、あの頃のあの瞬間を7時間くらいやる。
▍長い。
にしても長い。
さっき面白いと書いたが、7時間も人の話を聞いていれば当然集中力は切れる。
もちろんスマホは禁止。思えばこの期間は、スマホ依存に抗う期間だったとも言える。
▍学科試験はそれほど心配ない
試験は4択問題だった。
もう記憶が薄れているが、構造や荷役、力学、法令それぞれの分野から10問ずつくらい出た気がする。自動車免許試験あるあるの、ひっかけ問題は出なかったと思う。
その場ですぐに採点されることにドキリとしたが、無事全員合格だった。
自分が何点だったのかは開示されなかった。
実技(2~4日目)
▍正直不安である。
面白そう、と受講したものの、実技は正直不安である。
別に運転に自信があるわけではないし、むしろペーパー。
申し込み段階から不安だったものの、フォークの免許を持っている弟に「あれはどんなに下手でも受かるから大丈夫」と励まされた。
「コーン2、3本ぶっ潰してゴールした人も受かってたから」と聞いて少し安心した。
▍グループの人数は運
フォークリフトの実技講習では、「10人以内を1単位とする」という規定がある。つまり、1グループの人数が多いほど、自分の練習時間は少なくなる。
事前にネットでレポを読んだが、9人なんてのもザラらしい。1日に2、3回程度の練習で合格できる自信はない。
当日会場に着くと受講者が8人いたのでものすごく焦ったが、1台につき4人×2グループという、個人的には大変ありがたい人数配分だった。
▍昭和のおじちゃん講師陣
講師は日によって代わり、計3人の先生に教わった。
どの人も「THE 昭和のおじちゃん」という感じだった。
「バッカも~ん!👊」とか普通に言う。
この感じで怒る人まだいるんだ、と思った。
▍講師の鉄板注意ネタ🪰
そんなわけで、心の距離感近めの講師は、注意に容赦がない。
「おめえ今指差し忘れたなぁ!?」
「ハンドル切るのがはや〜い!!」
「はい、今のが試験だったら終わりだな😄」
などなど。しかも言いながらパイロンバーで車体をペシーンと叩かれる(フリだけど)。

この令和の時代に天然記念物レベルのノンデリ&ノンコンプラ発言を浴びるのはなかなか貴重で楽しかった。
特に印象的だったのは、受講生がチキって1キロくらいしか速度を出せていない時に出る、
「コラーーーッ!! そんなに遅いとハエがとまっちゃうよ~~!!?」
というキレツッコミ。計20回くらい浴びた。ハエ別にいねえし。
3人中2人が言ってたから、これたぶん講師陣の鉄板ネタなんだと思う。
注意は多かったものの、「厳しい」とはベクトルが違うので、「えー、じゃあどうしたらいいんすか?」などと気軽に訊きやすく、個人的にはやりやすかった。
▍自動車感覚でハンドル切ったらダメ
フォークリフト最大の特徴は、自動車と違い、後輪で舵を取るという点。
マックスまでハンドルを切ると、後輪は80度近く動く。切れ角が自動車の倍あるらしい。

つまり、めちゃくちゃ小回りが利く。遠心力がかかってケツが振る。
自動車感覚でハンドル操作すると回りすぎてしまうので要注意。
「そんな回さなぁ~~~~~~い!!!!」
「ハンドル切りすぎ切りすぎ切りすぎぃ~~~~~!!!!!」
と、何度指摘されたかわからない。
確かに講師陣のハンドル操作は必要最小限にして非常に滑らかだった。
あんまりガチャガチャ切り返す乗り物ではない。
▍後傾だと詰む! 前傾の方がマシ!
フォークリフト運転の目玉は、なんと言っても荷役操作。
フォークの昇降と傾斜の操作がある。昇降はわかりやすいが、難しいのは傾斜。荷役の際は、パレットに対してツメを水平にしなくてはならない。
講師が前傾と後傾それぞれの失敗例を実演してくれた。
前傾だと、重心が前に行きバランスが崩れたり、荷台を傷つけたりしてしまう。極端な図にするとこう。

逆に、後傾だとツメが荷物に刺さったり、パレットからツメが抜けなくなったりする。

おわかりいただけるだろうか。
フォークは横から見ると、先端に対して根元の方がやや太くなっている。
そのため、後傾だと根元が引っかかり、ツメを引き抜けなくなってしまうのだ。
そんなわけで、「抜けなくなるくらいならまだ前傾の方がマシだわな」と講師は言っていた。
▍荷物が1トンになると、台が鳴く
3日目くらいまでは、100キロの荷物を使って練習した。4日目からは1トンになる。
取りおろしの時にミシミシミシッて鳴るのがちょっと怖い。金属製で丈夫なはずの台がグギギッと明らかに耐えている音を聞くのは初めてだったので、なんかちょっと申し訳ないな思った。
にしても、日常生活で「トン」を使うことがまずないので、すごく言いたくなる。
「私1トンの荷物動かしたことあるよ?」と言いたい。
今のところその機会はない。
▍実技講習も長い。
学科も長かったが実技も長い。
基本立ちっぱなしなので足が疲れる。
体力のない貧弱な人間にはかなりきつかった。
それでも4日目には足や膝が慣れてきて、肉体の順応力に感動した。
体力って、運動継続したら本当につくんだろうな。継続できないけど。
▍タイムから見える成長
3日目の終盤、おじちゃん講師が「よーし、タイム計るぞ!」とか言い始めてマジでやめろと思った。
講師のお手本は4分だったが、私は10分近い記録を出した。
これ明日合格無理なんじゃないの。
「なんだ~、このタイム? 往復か~?😁」
と煽られたが、実際往復としての方が妥当なタイムなので言い返せない。
しかし練習を重ねた最終日の試験直前には、6分にまでタイムが縮んでおり、成長を感じた。何でもかんでも数字にするのは反対だが、こうやって自分の上達が目に見えるのは嬉しい。
実技試験
▍「自分、トップ行かせてください」
いよいよ実技試験が迫り、試験の順番を決めることになった。
待つ時間が嫌すぎて「自分、トップ行かせてください」と一番手に立候補した。
練習の感覚が残っているうちにやってしまった方が成功率が上がりそうだったし、最後になって別チームの人たちにまで見られる羽目になったらと思うと、そっちの方が嫌だった。
書いていてふと思ったが、何においてもトップバッターって実は美味しいポジションなのでは?
みんな嫌がるので立候補するとありがたがられる。
結果が悪ければ後の人たちのハードルを下げられるし、良ければ一目置かれる。
どう転んでもあんまり損しないな。
▍あ、これ普通に失敗ですわ。
「よーし、さっさと終わらせよう」と乗り込んだ。
コースはこんな感じ。

走行、荷物の積み取り、クランクは突破!
さーて、おろすぜ~。
指定の台の前で水平操作する。ウィーン。まあこんなもんでしょ。
パレットを上げて、置いて、引き抜こうとしたその時。
あ、これ抜けないねえ……
ツメが引っかかる。出た、後傾だ。
うーわ、普通に失敗だわ。
参ったね~。え~、どうするこれ?
まあやり直すしかないよね。このまま突破するのは無理だし。
と、脳内会議を開きながら一度バック。パレットを下げて、水平を取り直す。
多分思ってるよりも前傾にしちゃっていいんだな。
こんくらい? こんくらい? こんなもん?
そうして2度目は上手くいき、あとはバック走行でゴール。
正直、走行のことはもう全然覚えていない。
とにかく、「あ、終わった」と思ったあの瞬間だけ覚えている。
▍人間は焦ったらおしまい
練習のときは水平をとれていたのに、本番はやっぱりテンパった。
でも、その後に落ち着いて対応できたのには自分でも驚いた。
「焦らないで」「落ち着いて」というアドバイスは、盛り抜きで百万回言われていることだと思うが、実際のところそれは難しい。
というのも、次の人が私とまったく同じ失敗をして、本当に、本っ当に、可哀想になるほど、絵に描いたようなパニック状態になっていたのだ。
取りおろしの際フォークを後傾にしてしまったその人は、私と同じように、ツメを引き抜けなくなった。
そこから一度やり直したはいいものの、「ヤバイヤバイ」が先行した結果、さらに後傾にして、もっと抜けなくなってた。
しかもそれを3回くらい繰り返している。
もう見てるこっちがつらいレベルのパニック。
先生もため息つきながらチラッとストップウォッチとか見始めちゃって。
いや~、お腹痛い。
────どうあがいても、絶望。
っていう「SIREN」のキャッチコピー思い出したもんな。
追試で受かってたからよかったけど。
▍結果|合格! 免許証がしっかりしてて嬉しい。
全員合格だった。やったー!
訊けば教えてもらえたのかもしれないが、点数は開示されなかった。
あと、免許証がプラスチックカードの丈夫なやつでちょっと嬉しかった。
なんか、全然いいんだけど、診察券とか、ペラの紙だと「あ…」となり、プラだと「おお!」って興奮する。
カードの見てくれを気にする小さい自分…。カード素材のルッキズム。
▍心残り
仕事で乗る予定もないので、せっかくだから本当はフォークに乗ってる写真とか動画を撮りたかったのだが、到底そんなことが許される空気ではなかった。残念。
まとめ|できれば前傾(マシな方)を選ぼう。
特に理由がないのにフォークリフトの免許を持っているという、謎の称号が手に入って満足。普段乗れない物を運転できて楽しかった。
それから、実際に乗ってみることで、これを日々乗りこなして働いている人に対して一層尊敬の念がわいた。2キロ以上速度出せるだけで憧れる。
今回の学びは、
「どっちかって言うとこっちの方がマシ」を選んだ方が楽だということ。
それでも失敗しちゃったなら、落ち着いてまたやり直せばいいこと。
無事にゴールできたなら、途中の失敗はそれほど失敗でもないこと。
以上。なんだか人生に通ずる学びだ。
今後何かの選択に悩んだときは、
「これフォークで言ったらどっちが前傾かな?」と考えるようにしたい。
後日談
もうフォークに関わる機会も予定もないので、記念にトミカを買った。
自分はこれを運転できるのだと思うと、目に入るたび鼻高。満足。

備考|教育訓練給付制度が使える
フォークリフト運転技能講習は、教育訓練給付制度の対象になっている。
厚生労働大臣の指定を受けている講座であれば、その費用の一部を国が負担してくれるのだ。
私は一般教育訓練の講座を受けたので、正規の8割の金額で受講できた。
普通自動車免許を持っているので、4日間・31時間のコースだった。
ざっと調べた限り、おそらく最短最安で受けられる資格ではないかと思う。
