「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第97回 天下りは本当に悪なのか?
2025年1月24日、閣議後に開かれた記者会見において、総務大臣の村上誠一郎氏は、一連のフジテレビの問題について質問を受けました。フジテレビでは総務省で総務審議官を務めた吉田真貴子(旧姓:山田)氏が取締役に就いており、会見内では「天下りのために対応が甘くなっているのではないか」と問われる場面が生じました。これに対して村上大臣は、「同社が自らの判断で採用したものと理解しており、府省庁が企業等にあっせんした天下りの事実はない」と否定しています。

この件に限らず、日本では天下りが様々な問題の温床と考えられてきました。そのため複数回にわたり法改正が行われることで、問題を未然に防ごうという取り組みが官民一体で推進されてきました。具体的に言えば、2007年の国家公務員法改正や、2008年の国家公務員制度改革基本法の施行により、政府側からのあっせんは厳しく制限されるようになりました。
とはいうものの、グレーの部分が残されているのもまた事実です。例えばパチンコ業界に警察庁OBが再就職したり、航空関連会社に国土交通省OBが転職したりするケースなどは慣行として残っており、例を挙げれば枚挙にいとまがありません。それで、一度立ち止まって、この天下りという習慣が日本に一体どのような影響を及ぼしてきたのか、熟慮してみるのは良いことでしょう。
ではどうすればその実態を理解することができますか?この点で統計は有用です。統計を調べれば、過去にどのような天下りに関する法律が施行され、それによりどれだけの人が影響を受けたのかについて、正しい理解を得ることができます。これは今までの日本の悪しき習慣を炙り出すと共に、現在の日本が抱える構造的な問題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。それ故に統計は重要です。
ただ日本の統計だけでは不十分です。海外の統計にも着目する必要があります。実を言えば、退任した上級官僚が行政法人や民間企業に再就職する習慣は、日本だけのものではなく、世界中で見られます。ただどの国でも何らかの規制が設けられていて、それが機能している国もあれば、そうでない国もあります。それでこういった海外の統計や実例を調べれば、日本の特異性をより理解できるはずです。ですから海外の統計も大切です。
一方で統計だけでは見えて来ない分野もあります。それは当事者たちの「生の声」です。特に日本の場合、国家公務員総合職試験に受かったエリート官僚は、民間と比較して賃金が非常に安い傾向にあります。彼らは歳を重ねれば給料も上がっていきますが、同時に上に行けば行くほど席が限られるために、その多くが50代で退官を迎えます。それ故に天下りは「若いうちの安い賃金を取り戻す最後のチャンス」でもある訳ですが、近年は天下りに対する規制が厳しくなった結果、こういった芽も摘み取られ始めています。その結果、優秀な若手官僚が早期退職してしまう事例も相次いでおり、深刻な人材不足に悩まされている省庁も珍しくありません。
一方で企業にも企業の事情があります。特に許認可の申請に関わるような企業は、官公庁での経験や人脈を必要とするケースもあり、こういった企業においては、官僚OBは適任の人事です。言い換えるなら、官僚OBも、受け入れる企業側も、両者の利害が一致しているからこそ天下りの習慣がなくならない訳です。こういった現場に関わる人たちの声は、統計からは見えて来ず、当事者の話に耳を傾けて初めて理解できるものです。それで確かに「生の声」を聴くことは必要です。
この点で私は海外の港湾で会社を経営してきましたが、港湾という場所は、どの国においても天下りが頻繁に見られます。港湾の運営会社にも、また港湾を使用する物流企業にも、国土交通省などの官僚OBが多く見られ、彼らによってビジネスが取り仕切られている側面もあります。その一方で、それが腐敗や賄賂の温床になるケースも少なからずあり、規制が強められている現状も見られます。私は海外のこういった実例を目の当たりにしていますので、「生の声」を聴くという点でも、確かに有利な立場にいます。
それで今日は「天下りは本当に悪なのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、天下りに関する法規制が過去にどのように施行されてきたのかを俯瞰します。次に海外の統計を通して、諸外国の天下り規制を比較し、日本の特異性をさらに浮き彫りにします。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、日本の天下りの問題点を指摘すると共に、日本が向かうべき方向性について具体的な提言を行います。日本の官僚主義や行政の在り方に不満を感じておられる方には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
ここから先は

ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
