なぜテンプル・グランディンは、言葉より先に絵で考えたのか
会議で、頭の中にはちゃんとイメージがあるのに、うまく言葉にできない。
そんな経験はないでしょうか。
思っていることと、言葉にできることの間には、いつも隙間があります。
その隙間の向こう側で、人は何を考えているのでしょうか。
言葉より先に、絵が浮かぶ人がいる
多くの人は「考える」という行為を、頭の中で言葉をしゃべることだと思っています。
けれど、そうではない考え方をする人もいます。
言葉ではなく、映像で考える人たちです。
自閉症の当事者であり、動物学者でもあるテンプル・グランディンは、その一人でした。
牛の目で見た世界
グランディンは、自分の思考をこう表現しています。
「私はすべてを写真で考える。言葉は、あとから翻訳としてついてくる」
「牛」と言われると、ほとんどの人の頭には、ぼんやりした牛のイメージが浮かびます。
けれどグランディンの頭には、これまで見てきた無数の牛の姿が、次々と具体的な映像で流れ出すといいます。
彼女はこの力を使って、家畜の扱い方を根本から変えました。
当時の家畜処理施設は、牛が怖がって暴れ、従業員も牛も傷つくことが多い場所でした。
グランディンは、施設の設計図を眺めるのではなく、自分が四つ足で歩く牛になったつもりで、通路を歩くところを頭の中に描きました。
牛の目の高さから見える影、光の反射、急な角度。
牛が怖がる原因を、言葉の分析ではなく、映像のシミュレーションで突き止めたのです。
彼女が設計した緩やかにカーブする通路は、今も北米の家畜施設の半数近くで使われています。
言葉で考える人には見えなかったものが、映像で考える人には見えていました。
AIは、言葉と画像を学んでも、体は持っていない
今のAIは、文章だけでなく、画像や映像からも学習できるようになりました。
一見すると、グランディンのような視覚的思考に近づいたようにも見えます。
けれど、AIが処理しているのは、あくまでピクセルのパターンです。
四つ足で歩いたことも、低い目線から世界を見上げたこともありません。
グランディンの映像思考は、彼女自身の体と感覚が、長年かけて刻み込んだ経験の蓄積でした。
AIの画像理解は、体を通さずに、外から統計として学ばれたものです。
同じ「絵で考える」という言葉が使えても、その中身は、まったく違う場所から生まれています。
それでも、言葉にならない思考には価値がある
グランディンの発見は、言葉にする前から、すでに彼女の中にありました。
言葉にできなかったら、それは考えていないことになるのでしょうか。
うまく言葉にできないまま抱えているイメージや違和感は、あなたの中にもあるはずです。
それを急いで言葉にする前に、しばらく、そのままの形で眺めてみたら、何が見えてくるでしょうか。
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