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犬はチンパンジーより人の気持ちがわかる——共感はなぜ必要だったのか

人間が指を差すと、犬はその方向を見る。
シンプルだけれど、これが何かを教えてくれる。


チンパンジーにできないことが、犬にはできる

指差しをすると、犬はその先を見る。

でも、チンパンジーはそれが苦手だ。

知能の高さで言えば、チンパンジーの方が犬よりずっと上だ。
なのになぜ、「人間の意図を読む」ことが、
犬の方が得意なのか。

進化人類学者のマイケル・トマセロは
これを「人間と共同生活した歴史の違い」で説明した。

犬は何千年もかけて、
人間の意図を読むことを学んできた。

知能とは別の何か——
「相手が何を見ているか」を追う能力が、
共に生きる中で磨かれた。

フランス・デ・ワールが記録した「慰め」

霊長類学者のフランス・デ・ワールは、
チンパンジーが「慰め行動」をすることを長年記録してきた。

仲間が争いに負けて落ち込んでいると、
別の個体が近づき、体に触れる。

ゾウも同じような行動をする。
仲間が死んだとき、その場を離れない。
鼻で触れ続ける。

デ・ワールは言う。
「共感は人間だけのものではない。
 感情的な伝染と、意識的な視点取得の間に、
 段階的なグラデーションがある」

生存に、他者の状態を感じ取る能力が必要だった。
危険を知らせる。協力を求める。
「共感」は美徳ではなく、機能として進化したのかもしれない。

「共有志向性」——人間だけが持つ能力

トマセロはさらにこう論じた。

人間だけが持つ能力——それは「共有志向性」だ。

「一緒に目標を達成しよう」という意識を、
相手と共有できること。

チンパンジーは仲間と協力する。
でも「一緒の目標に向かって、一緒に動く」という意識は薄い。

サッカーでチームプレーができるのも、
大型のプロジェクトを協力して進められるのも、
この共有志向性があるからだ。

言葉より前に、「一緒にやろう」という感覚があった。

「一緒にやろう」をAIは理解できるのか

AIは共感的な応答ができる。
人間の感情を読み取り、適切な言葉を選べる。

でも、「一緒の目標に向かって、本当に一緒に動く」という
共有志向性を持てるのか。

哲学者のポール・ブルームは著書「反共感論」でこう論じた。

溺れている目の前の一人は助けられる。
でも、遠くで何百万人が苦しんでいると聞いても、
同じようには動けない。

共感は、近くにいる具体的な人に強く反応し、
統計的な大人数には弱い。

だからこそ「コンパッション(慈悲)」——
感情の距離に左右されない理性的な思いやりが必要だと、
ブルームは言う。

共感と慈悲の違いは、どこにあるのか。
AIには、どちらが近いのか。


「共感」はなぜ生まれたのか。
「「一緒にやろう」という感覚は、知能とは別の何かなのか」でしょうか。
「共有志向性は、体と時間を持って生きる存在にしか宿らないのか」でしょうか。



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