なぜ、お世話されているだけでは足りないのか
保育園に預けた初日、子どもは泣きわめきます。
先生が優しく抱っこしても、なかなか泣き止みません。
ミルクも与えられ、清潔にしてもらっているのに。
何が足りないのでしょうか。
世話をされることと、気にかけられること
栄養を与え、清潔にし、危険から守る。
それだけで、子どもの心は満たされるのでしょうか。
かつて、多くの専門家は「満たされる」と考えていました。
その考えが根本から間違っていたと示す出来事が、1950年代のイギリスにありました。
一週間に一度の面会
当時のイギリスの病院では、入院した子どもと親を、長期間引き離すのが当たり前でした。
面会は週に1回、わずか1時間ほど。
理由は「その方が子どものためになる」というものでした。
親が帰るたびに泣かれるより、最初から会わせない方が、子どもは早く慣れて落ち着く、と信じられていたのです。
食事も与えられ、治療も受けられる。
世話としては、十分なはずでした。
精神分析家ジェイムズ・ロバートソンは、この考えに疑問を持ちました。
彼は、入院したある2歳の女の子の姿を、記録映画に収めました。
母親と離され、見知らぬ看護師たちに囲まれた女の子は、初めは泣き叫び、やがて静かになっていきました。
静かになったのは、落ち着いたからではありませんでした。
助けを呼んでも誰も応えてくれないと、あきらめてしまったのです。
映画は当初、多くの医療関係者から「大げさだ」「非科学的だ」と受け止められました。
けれど、公開が重ねられるうちに、世の中の見方は変わっていきました。
やがて病院は、親が子どものそばに付き添える方針へと変わっていったのです。
世話が足りていても、気にかけてくれる存在がいなければ、子どもは深く傷ついていました。
AIは、気にかけてはくれない
今、子どもがAIスピーカーや会話AIに強くなつく例が増えています。
質問すれば答えてくれる。
歌ってと言えば歌ってくれる。
けれど、ある研究者はこう警告しています。
AIとの関係にのめり込みすぎると、本当に気にかけてくれる親との絆が弱まる恐れがある、と。
AIは応答します。
でも、あなたのことを心配して、夜眠れずにいたりはしません。
1950年代の病院が「世話をすれば十分」と考えたのと、どこか似ています。
応答があること。
それだけで、満たされたと思い込んでいないでしょうか。
それでも、見分けはつく
健やかな愛着には、一つの目印があると言われています。
その対象がいなくても、ちゃんと生きていけること。
いなくなると不安で仕方なくなるなら、それは安心ではなく依存かもしれません。
あなたが今頼っているものは、いなくなっても平気なものでしょうか。
それとも、いないと落ち着かなくなるものでしょうか。
そしてそれは、あなたのことを、本当に気にかけているでしょうか。
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