なぜ、自分だけの「色」に、気づけなかったのか
自分に見えている色が、
隣の人にも、まったく同じように、見えている保証は、ありません。
「見えている世界」を、比べる方法がなかった
自分の目に映る景色を、
そのまま、他人の頭の中に、移し替えることは、できません。
だからこそ、ある化学者は、長いあいだ、
自分だけが、世界を、少し違うふうに見ていることに、気づけずにいました。
色の名前が、いつも、ちぐはぐだった
18世紀のイギリスの化学者、ジョン・ドルトン。
のちに、原子の存在を、科学的に説明したことで、知られる人物です。
ドルトンは、あるとき、気づきました。
自分が「暗い色」だと思って選んだ服や花の色を、周りの人が「赤い」「ピンクだ」と、まったく違う言葉で、呼んでいたのです。
長年、当たり前だと思っていた自分の色の感覚が、
他の人たちとは、ずれているのかもしれない。
そう考えたドルトンは、1794年、自分自身の色の見え方を、詳しく調べ、論文として、発表しました。
学問の対象にすら、なっていなかった
当時のヨーロッパの科学の世界では、
このような「人によって色の見え方が違う」という現象は、
本格的に、研究されたことが、ありませんでした。
ドルトンは、自分自身の目を、研究材料にして、
先天的に、色の感じ方が異なる人がいることを、初めて、体系立てて、示したのです。
原因についての、ドルトンの説明は、
のちに、誤りだったことが、分かりました。
けれど、この現象を、初めて、学問として、記録した功績から、
先天的な色覚の違いは「ドルトニズム」とも、呼ばれるようになりました。
1995年、保存されていたドルトン自身の目の組織を、現代の技術で調べたところ、
特定の色を感じ取る細胞が、うまく働いていなかったことが、確認されています。
見えているものは、確かめ合わない限り、分からない
ドルトンは、色が見えなかった、わけではありません。
ただ、多くの人とは、少し違う「色の世界」を、
生まれてから、ずっと、見続けていたのです。
それに気づけたのは、
自分の感覚と、他人の言葉を、注意深く、比べ合わせたからでした。
もし、誰とも、色の名前を、確かめ合わなかったら。
ドルトンは、生涯、自分だけの「現実」を、
みんなと同じものだと、思い込んだままだったかもしれません。
私たちが「当たり前」だと思っている見え方の中にも、
まだ、誰とも、確かめ合っていないものが、あるのかもしれません。
それに気づく方法は、
ひとりで考え込むことでしょうか。
それとも、誰かと、言葉を、交わすことでしょうか。
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