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なぜ、飛行機を避けた人が、かえって命を落としたのか

こわい出来事のあと、
つい、別の方法を選んで、安心しようとしたことは、ありませんか。


「安全な方」を選んだはずだった

危険を避けようとして、選んだ行動が、
実は、もっと危険だった。

そんな、皮肉な出来事が、統計の中に、記録されています。

飛行機を避けて、車を選んだ人たち

2001年9月、アメリカで起きた同時多発テロ。
4機の飛行機が関わり、機内にいた266人が、命を落としました。

この出来事のあと、多くのアメリカ人が、飛行機に乗ることを、避けるようになりました。
代わりに選ばれたのが、車での移動でした。

心理学者ゲルト・ギーゲレンツァーは、この選択が、
その後、何を引き起こしたのかを、調べました。

避難先のはずの車が、より多くの命を奪った

調査の結果は、驚くべきものでした。

事件のあった2001年の10月から12月にかけて、
過去5年間の同じ時期と比べて、自動車事故による死者が、353人も、多かったのです。

353人。

これは、あの事件で、飛行機の中で亡くなった266人という数字を、
上回っていました。

飛行機を避けた「安全な選択」のはずが、
より多くの命を、奪う結果に、つながっていたのです。

恐怖の形が、判断を、ゆがめる

ギーゲレンツァーは、この現象を「恐怖のリスク」と呼びました。

一度に、大勢が亡くなる出来事は、強い衝撃とともに、記憶に刻まれます。
一方、車の事故は、ひとりずつ、少しずつ、日常の中で、起きていきます。

命を奪う確率で言えば、飛行機のほうが、はるかに、低いのです。
それでも、鮮烈な映像とともに記憶された「恐怖」が、
静かに積み重なる「日常の危険」より、ずっと重く、感じられてしまったのです。

ギーゲレンツァーは、こう指摘しています。
人は、災害のあとの心の反応や、危険を避けようとする行動そのものが、
新たな危険を、生み出しうることを、もっと知る必要がある、と。

「避ける」という選択にも、物語の力が働いている

これは、判断力が足りない人だけに、起きたことではありません。

強く印象に残った出来事から、身を守ろうとする気持ちは、
誰の中にも、自然に、働くものです。

けれど、その「避けたい」という気持ちの強さは、
実際の危険の大きさと、必ずしも一致しません。

物語の鮮烈さが、判断そのものを、
静かに、書き換えてしまうことがあるのです。


危険を避けようとするとき、
私たちは、何から、逃げているのでしょうか。

本当の危険からでしょうか。
それとも、危険の「物語」からでしょうか。



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