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なぜ、正しい人が、笑われて死んだのか

自信満々な人ほど、正しいとは限らない。
けれど、正しい人が、いつも、自信を持って迎えられるとも、限りません。


「手を洗うだけ」を、誰も信じなかった

自分より、知識も経験も豊富な人たちに、
正しいことを伝えたのに、まったく、聞き入れてもらえない。

そんな経験をした、ひとりの医師が、歴史に、残っています。

ふたつの産科の、死亡率の違い

1847年、オーストリアのウィーン総合病院。

そこには、ふたつの産科がありました。
ひとつは、医学生が担当する産科。もうひとつは、助産婦が担当する産科です。

医師のイグナーツ・ゼンメルワイスは、あることに、気づきました。
医学生が担当する産科のほうが、産後の女性が命を落とす確率が、はるかに高かったのです。

原因を探るうち、ある同僚の死が、手がかりになりました。
その同僚は、遺体の解剖中に、メスで指を傷つけ、産後の女性と、よく似た症状で、亡くなっていたのです。

ゼンメルワイスは、気づきます。
医学生たちは、遺体の解剖をしたあと、手を洗わずに、そのまま、出産の処置に、向かっていたのです。

手を洗うだけで、死亡率が激減した

ゼンメルワイスは、医学生たちに、次の処置の前に、
消毒液で、手を洗うよう、命じました。

結果は、劇的でした。
産後の死亡率は、大きく下がったのです。

これほど、はっきりとした効果が、出たにもかかわらず、
医学界の主流は、彼の発見を、受け入れませんでした。

「目に見えない何かが、病気を運んでいる」という考え方は、
当時の、確立された医学の常識には、なかったからです。

自信に満ちた、経験豊富な医師たちは、
ゼンメルワイスの主張を、根拠のない、突飛な説だと、退けました。

正しさは、届く前に、拒まれた

ゼンメルワイスは、論文を書き、本を出版し、
繰り返し、訴え続けました。

けれど、聞き入れられることは、ありませんでした。

やがて、彼の心は、追い詰められていきます。
最終的に、精神を病んだとされ、精神病院に、送られました。

そして、1865年、その病院で、生涯を、終えたのです。

皮肉なことに、その数十年後、
細菌が病気を引き起こすという「細菌説」が、確立されます。

手を洗うことの大切さは、ようやく、医学界全体の、常識になりました。
ゼンメルワイスが、正しかったことが、証明されたのです。

経験と自信は、時に、正しさへの扉を、閉ざす

ダニング=クルーガー効果は、知識の少ない人が、
自分を過大評価してしまう現象として、知られています。

けれど、ゼンメルワイスの物語は、その、裏側を、示しています。

経験を積み、確立された知識を持つ人たちほど、
その自信が、新しい発見を、受け入れる余地を、狭めてしまうことがあるのです。

正しいことを、正しいと、証明するだけでは、足りないことがある。
それを、どう届けるかもまた、大きな課題として、残り続けています。


自信のなさが、正しさを見失わせることもあれば、
自信の強さが、正しさを、拒んでしまうこともある。

私たちは、どちらの罠に、より、注意すべきなのでしょうか。



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