マルチタスクが得意な人ほど、実は苦手だった
複数のことを同時にこなす「マルチタスク」。
仕事や勉強でも、この能力が評価されることがあります。
でも本当に、人間はマルチタスクができるのでしょうか。
コンピューターと人間の違い
コンピューターは、複数のプロセスを文字通り同時に実行できます。
人間の脳は違います。
心理学者デイヴィッド・マイヤーらの研究では、
人間が「マルチタスク」をしているとき、
実際には高速でタスクを切り替えているだけだとわかりました。
そして切り替えるたびに「切り替えコスト」が発生する。
以前の思考モードから新しいモードへ移行するのに、
時間とエネルギーが必要です。
「得意」な人ほど、成績が悪かった実験
スタンフォード大学のクリフォード・ナスらの実験があります。
「自分はマルチタスクが得意だ」と自己評価する人と、
「一度に一つのことをする」人を比べました。
記憶力のテスト、注意力のテスト、タスク切り替えのテスト。
全てで、「得意」と思っている人たちの成績が悪かった。
なぜでしょうか。
マルチタスクをよくする人は、注意の切り替えを繰り返すうちに、
一つのことへの集中が難しくなっていた、と研究者たちは考えています。
フロー状態という名前の、古い体験
チェコスロバキア生まれの心理学者ミハイ・チクセントミハイは、
人が「最高に幸福で、最高のパフォーマンスを発揮する瞬間」を研究しました。
アーティスト、スポーツ選手、チェス棋士、外科医——
さまざまな人を調査して共通することを見つけました。
注意が一点に完全に集中したとき、
時間を忘れるほど没頭する状態が生まれる。
彼はこれを「フロー状態」と呼びました。
「没頭する」という経験は、人間が大昔から知っていたものです。
名前がついたのは、1970年代のことでした。
ディープワークという経済的な概念
作家でありコンピューター科学者のカル・ニューポートは、
現代においてある能力が急速に希少になっていると指摘しました。
「認知的に要求の高い作業を、妨害なしに深く集中して行う能力」
彼はこれを「ディープワーク」と呼びます。
なぜ希少になっているのか。
電子メール、Slack、SNS、通知——現代の仕事環境は、
常に即座の反応を要求します。
そして希少なものは、価値が高い。
「狩り」の集中と、「作業」の分散
石器時代、獲物を追う狩猟は深い集中を要しました。
草の揺れ方、足跡の新しさ、風の向き——
全ての情報を一点に統合する、長時間の単一タスクです。
現代のオフィスワークや学習は、
多くの場合、頻繁な中断と切り替えの連続です。
人間の認知システムは、どちらにより適しているでしょうか。
「マルチタスクが得意」というのは、本当のことでしょうか。
「深く集中する時間」は、どうやって作るのでしょうか。
AI時代に、人間が集中すべき対象は何でしょうか。
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