なぜ「ルールを守ること」と「安全であること」は違うのか
改札にICカードをタッチすると、一瞬でゲートが開きます。
仕組みを聞かれても、たぶん答えられません。
でも、毎日何の疑いもなく使っています。
「使える」ことと「わかっている」ことは、同じではないのかもしれません。
「使える」と「わかる」の間にあるもの
私たちは、理解していないものに囲まれて生きています。
スマホの中で何が起きているか、説明できる人は多くありません。
けれど、使うのに支障はありません。
「わかっていなくても、使える」
この事実に、正面から向き合った物理学者がいました。
そしてもう一人、この事実を逆手に取った人がいました。
同じ人物です。
金庫を破り続けた物理学者
第二次世界大戦中、ロスアラモス研究所。
原爆開発の最高機密が保管された場所です。
若き物理学者リチャード・ファインマンは、ここで奇妙な行動を取り続けました。
上司は、書類の中身よりも、金庫に鍵がかかっているという「形式」ばかりを気にしていました。
ファインマンは、それが気に入りませんでした。
趣味だった金庫破りの腕を使い、機密書類の入ったキャビネットを次々と開けてしまったのです。
上司が新しい金庫に替えると、また開ける。
何度も、何度も。
彼が壊したかったのは、鍵そのものではありません。
「鍵さえかかっていれば安全だ」という思い込みでした。
ルールを守ることと、本当に安全であることは、別物だと示したのです。
AIにも、同じ問いが向けられている
今、AIにも「説明責任」という名のルールが求められています。
なぜその答えを出したのか、理由を添えるように、と。
けれど、その説明は本当に、AIの中で起きていることを映しているのでしょうか。
もっともらしい理由を、後付けで並べているだけかもしれません。
形式としての説明と、本当の理解。
その境目は、AIの世界でも、まだはっきりしていません。
ファインマンが向き合った量子力学も同じでした。
「理解していると思うなら、理解していない」
彼はそう言い切りながら、それでも計算し、予測し、使い続けました。
わからないことを認めた上で、それでも前に進む。
その姿勢だけは、崩しませんでした。
それでも、確かめることはできる
鍵がかかっているかどうかは、見ればわかります。
でも、本当に安全かどうかは、確かめてみないとわかりません。
AIの答えがもっともらしいかどうかも、同じです。
説明が添えられているだけで、安心していないでしょうか。
その説明は、本当に「中身」を映しているのでしょうか。
それとも、鍵がかかっているという「形式」だけを見て、安心しているのでしょうか。
→ Podcast で深く聴く|ハルとおじいさん 第7部第2話
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