をかしな話~永楽館で子ども落語大会編~
「時うどんを演じられていました、をかしさんでーす!」
お茶を吹き出しそうになりました。
皆さんは、6月13日と14日に兵庫県豊岡市で開かれた、出石永楽館全国子ども落語大会をご存じですか?13日に予選、14日に永楽館で決勝が行われました。永楽館は、映画「国宝」のロケ地にもなった歴史ある芝居小屋です。そこで演じることを目標に、全国から子ども落語家たちが集まります。
この大会の面白いところは、審査員がお客様だということです。お客さんに投票用紙が配られ、「面白かった!」と思う子ども落語家の番号を書いて投票します。予選では三人、決勝では一位・二位・三位を選びます。
私は「時うどん」を演じました。去年落語を通してできた友達も来ていて、父や母の応援もあり、思い切り演じることができました。それに、「決勝に出られなくても、お客さんとして永楽館に行ったらいいかぁ~」なんてのんきなことを考えていたので、怖がることなく大胆に演じられたのだと思います。
予選が終わると、出場者と保護者による懇親会がありました。会場はワイワイガヤガヤ。私は他の出場者たちとおしゃべりをしていました。同じ落語好き同士なので話も弾み、とても楽しかったです。
そして、いよいよ決勝進出者の発表です。
「まず、〇〇さん!おめでとうございます。次に~~」
と名前が呼ばれていきます。
そして最後から二番目くらいに、
「時うどんを演じられていました、をかしさんでーす!」
と言われました。
私は飲んでいたお茶を吹き出しそうになりました。
近くの子に、
「ほんとに私でいいんだよね?ほんとだよね?」
と何度も確認します。
すると、
「をかしだよ、聞いていたよ。おめでとうだね」
と三回ほど言われました。
それでも私は、
「・・・ほんとに、決勝に進出するんだあ……」
と、ぼんやりしていました。
未練がある、でもないし、感心、でもない。寂しいでは絶対に違う。怒りでも全くない。どう表現したら良いのかわからない、不思議な気持ちでした。
促されるまま壇上へ上がり、明日の意気込みと演目、名前を言って席へ戻ります。
その日は宿で一泊しました。
そして冷静になった頃、私はようやく現実を理解しました。
「うわあああー!どうしよう!」
あまりにも遅すぎる反応に、両親は苦笑いしていました。だって、本当にびっくりしていたんですもの。
翌日、永楽館へ向かいます。
軽い説明を受けた後、高座の順番を確認し、開演までソワソワしながら待っていました。できたばかりの落語友達と、
「緊張してきた、どうしよう……」
と言い合っていました。
緊張という病が全身を蝕んでいくような、そんな感覚です。
そして、いよいよ私の番。
実は私は、お客さんをかぼちゃの山だと思うことにしていました。しかも眼鏡を外していたので、お客さんの顔はよく見えません。
だから客席は、本当にジャックオランタンの大群みたいに見えました。
そんな中で演じた「時うどん」。
ところが、うどんをすする場面で、私は軽くむせてしまいました。
その瞬間の心境は、
「終わった。多分、絶対投票してくれない」
です。
だって、すする音が途中で途切れたんですよ!?
案の定、一位から三位までは他の子たちが持っていきました。
悔しいー!
でも、文句のない結果です。
特に最優秀賞だった薫風亭文鳥兄さんの「粗忽長屋」は圧巻でした。文鳥兄さんは中学三年生なので、来年はもう出場できません。
だから私は袖から、文鳥兄さんの舞台裏をしっかり目に焼き付けていました。
どうやって出番を待っているのか。
どんな表情で高座へ向かうのか。
どんな空気をまとっているのか。
少しでも盗みたい、少しでも近づきたいと思ったからです。
悔しかったけれど、それ以上に勉強になった大会でした。
来年も、そのまた来年も、永楽館では子ども落語大会が開かれます。
皆さんも機会があれば、ぜひ見に行ってみてください。
予選を勝ち抜いた八人の子ども落語家が、それぞれの全力をぶつけています。
きっと、お腹を抱えて笑えると思いますよ。
