「思いっきりお金使いすぎた」という話——クレーンゲームにお金を使った夜、なぜ後悔しなかったのか
景品が取れなくても「楽しかった」で帰れる人と、取れても「もっとやればよかった」と引きずる人がいる。
この差って、なんなんでしょう?
ポジティブ思考?楽しむセンスがないから?
いいえ、センスじゃないんですよ。
■「何も残らない出費」がなぜ後ろめたいのか——結果主義消費の正体
クレーンゲームにお金を使った夜、こんな気持ちになったことはありませんか。
景品は取れなかった。手元には何もない。レシートだけが残っている。「また無駄にしたな……」という、あの感覚。
でも不思議なんですよね。同じ金額を使っても、カフェでコーヒーを飲んだときは「無駄にした」とはあまり思わない。映画を観ても「損した」とはならない(作品がひどければ別として)。
なぜクレーンゲームだけ、あんなに後ろめたいんだろう。
この罪悪感、じつは個人の性格の問題じゃないと思っています。社会が僕たちに埋め込んだ「正しい消費の形」が原因だと、社会調査士として見立てています。
僕たちが生きているのは、ボードリヤール(『消費社会の神話と構造』)が指摘した「記号的消費の時代」。物やサービスに支払うお金は、何かが「残る」「手に入る」「証明される」ことへの対価として位置づけられてきた。
家・車・学歴・筋肉・資産——「結果」が形になって見える消費は正当化される。逆に、過程や体験や感情のゆらぎにお金を払うことは、近代以降ずっと「効率が悪い」「計算できない」として後ろに置かれてきた。
クレーンゲームはその最たるものです。景品という「結果」を目指しているように見えて、ゲーセンに行く理由の多くは操作する快感・台との対話・「もう一回」の緊張感、つまり過程そのものにある。でも社会は「結果が出たかどうか」だけで消費を評価するから、結果が出なかった夜はどうしても後ろめたくなる。
罪悪感の正体は、「結果が残らなかった自分」ではなく、「結果を基準に消費を測れ」という規範を内面化している自分です。
■ クレーンゲームが合理的に見えない理由——消費社会論が語る「過程の価値の見えにくさ」
2021年度、プライズゲーム機器の製品販売高は3,062億円を記録しました(日本アミューズメント産業協会「アミューズメント産業界の実態調査報告書」2021年度版)。過去16年間で最高水準です。
これだけの規模の市場が成立しているのに、「クレーンゲームにお金を使うのは合理的か」という問いに、胸を張って「そう!」と言える人はあまりいない。
なぜか。「過程の価値」は数字で表しにくいからです。
景品が手に入れば「定価の何割で手に入った」と計算できる。でも、あの「もうちょっと……!」という緊張感や、アームがずれた瞬間の「あーっ」という声や、うまくいったときの「やった!」は、どこにも数字として現れない。
消費者行動の研究では、物質的購入より体験的購入のほうが主観的なウェルビーイングを高めるという結果が繰り返し出ています(Van Boven & Gilovich, 2003 / Journal of Personality and Social Psychology)。体験は「比較しにくい」から、買ったあとに「あっちのほうがよかった」という後悔が生まれにくい。物は比べられるけど、あの夜の感情は比べようがない。
**それでも「過程」は評価されない。可視化できないから。**
クレーンゲームが「非合理」に見えるのは、あなたが下手な使い方をしているからじゃなく、「可視化できない価値を評価しない」という消費のモノサシが、最初からおかしいからなんです。
■「満足度単価」を結果じゃなく過程で測り直す——考え方の入口
マガジンのシリーズ「ごきげんな散財」では、一つの判断軸を使っています。
**満足度単価=使った金額 ÷ ときめいた回数**
「ときめいた回数」って漠然としてますよね。もう少し具体的に言うと——「この瞬間のためにお金を払ってよかった」と思えた瞬間の数です。
クレーンゲームで言えば。アームが動くたびに「いけるか?」とドキドキした回数。景品に触れた瞬間の「あ!」。友達と「惜しい!」と笑った瞬間。台から離れながら「また来よう」と思えたかどうか。
これを全部ゼロにして「景品が取れたかどうか」だけで評価するのは、映画を「エンドロールまで観たかどうか」だけで評価するようなものです。
結果主義のモノサシで過程消費を測るから、後悔する。モノサシを変えるだけで、同じ夜の意味が変わってくる。
この先では——なぜ近代社会が「結果消費」だけを正当化してきたのかを社会学的に読み解き、クレーンゲーム・競馬・ライブ別に「後悔しない使い方のフレーム」を具体的に組み立てます。さらに、「いい散財」と「後悔する散財」を見分けるチェックリストと、過程消費を意図的にごきげんにする3つの習慣もまとめました。
罪悪感の構造がわかると、同じお金の使い方でも全然違う夜になりますよ。
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