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小津、溝口、成瀬に次ぐ文芸・花街映画の巨星 石田民三監督の映画を世界はまだ知らない

小津安二郎作品には「浮草」があり、溝口健二作品には「祇園の姉妹」「残菊物語」がある、成瀬巳喜男作品には「鶴八鶴次郎」「歌行燈」が。これらの文芸・花街映画の代表作は世界映画史の中でも独自の輝きとオリジナリティを誇っており、人気も評価も高いです。ここにもう一人、加えなければなならない監督、石田民三(いしだたみぞう)をご紹介します。

生まれは1901年の秋田。デビューは1926年の「愛傷」。「東京オリンピック」の市川崑監督が助監督を務めていたのは東宝時代らしく、今回紹介するのは1938年と1939年の二作。原作は杉村春子の舞台「女の一生」の作者、森本薫。主演は山中貞雄監督「丹下左膳余話 百萬両の壺」の花井蘭子。久しぶりに刮目しました。

①『花ちりぬ』1938年

【あらすじ】幕末の京のお茶屋で、長州藩士と外の世界へ飛び出すことを夢見る主人公だったが、禁門の変により戦火が迫り、芸妓たちは避難を始める。娘は男の身を案じながら燃え盛る京の夜空を見つめる。。。
【マリウスの視点】侍のヒロイズムを否定し、庶民中心の近現代的ヒューマニズムを大胆に持ち込んだ早過ぎた傑作。叙情的でもあり、同時に政治・歴史・反戦の映画でもあります。幕末を侍を排して描く手法は、ほとんど前例が無く、日本人の持つ歪な歴史観にメスを入れた作風とも言えます。侍や軍人、男たちだけが歴史を形作って来た訳では無いのです。

②『むかしの歌』1939年

【あらすじ】明治初期の大阪で、出生の秘密を抱える船問屋の娘・お澪が、生き別れの妹である貧しいお篠と出会い交流を深めます。西南戦争による父の破産で生活が一変し、お澪は家を支えるために芸者として花街へ身を落とすことに。。。
【マリウスの視点】古風な台詞回しも素晴らしく、女性たちの和服の佇まいも借り物では無い雰囲気があります。監督の妥協を許さない本物の作品作りの拘りが伺えます。人生の悲哀を感じさせる詩的なカメラ・カットも素晴らしい。名画とは観客がスクリーンと一体化出来る作品の事。文明開化に揺れた明治の空気を吸う事が出来る77分です。

石田監督の作品には叙情的ながらも、どこか凛とした色気の様なものを感じます。意図して出した胡散臭さは無く、自然と出た落ち着いた上品な大人の色気です。他者をそっと優しさで包む様な、本物の文化・大人のみが持つ、はんなりとした色気。日本映画のフィルモグラフィーが、文化大国であるフランスにも劣らない優れたものである事を、図らずもこの二作品は証明しています。 

京の風流と粋を愛した石田監督は早期引退後、妻が営むお茶屋を手伝いながら「北野をどり」の舞台演出や、さのさ愛好会の出版された本に言葉を寄せたりしておられました。最後は石田監督の風流を耳で体感出来るであろうその「さのさ」を、昭和の名歌手・市丸さんの名唱で。

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