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共生の黎明 #73 第16章 第16節:手渡される想い 連続小説

夕暮れ、川沿いの小道。

薄紅に染まる水面が、風に揺れて静かにきらめいている。
そのほとりに、男性職員の姿があった。

数日前までの彼なら、気づかなかったかもしれない。
けれど今日は、すれ違った年配の男性の表情に、ほんのわずかな陰りを見た。

それが気になって、彼は数歩戻る。
「すみません……ちょっと、いいですか?」

呼び止められた老人は、少し驚いたように振り返る。
「……なんだね?」

「この辺りの暮らしについて、もしよければ少しお話を伺えたらと……。
調査とかじゃないんです。ただ、聞いてみたくなって」

老人はしばらく彼の顔を見つめてから、小さく笑った。

「そうか……。じゃあ、座って話そうか。そこの石に」

ふたりは、夕陽を背に並んで腰を下ろす。

「昔はね、この川でもよく釣りをした。今じゃ魚も減ってしまったが……。
でも、子どもたちの笑い声がまた戻ってきたよ。最近な」

「……子どもたち、ですか」

「そう。何がきっかけだったかは、よう知らんが……この集落の“空気”が少し、変わったように思う。
ありがとうとか、ごめんねとか、そういう言葉がよう聞こえるようになった。
……まるで、昔に戻ったようだよ」

彼は黙って頷く。

その言葉の中に、誰の手でも数値化できないものが、確かに宿っているのを感じた。

「それって……ユラ、のことかもしれません」

「ユラ?」

「ええ、想いを形にして循環させる……そういう仕組みというか、気持ちの交わし方です。
きっと、それが……誰かの背中を、そっと押してるんです」

老人は目を細め、遠くの山を見やる。
「そうか……。なら、あんたも、押された一人かもしれんな」

「……はい。気づかされました。たくさんのことに」

そして、ふたりはしばらく黙って川の音を聞いた。
風が、竹の葉をさらさらと鳴らしながら、夕暮れの空を撫でていく。

そうして、またひとつ、想いが手渡された。


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