【論文メモ220】「変革への抵抗」を生み出すアナザーストーリー(Ford et al. 2008)
組織変革において、必ずと言っていいほど発生する「抵抗」についての捉え方について新たな解釈をもたらした論文を取り上げる。
この論文では、抵抗とは、一方的に変革の受け手に帰属されるものではなく、変革を推進する側(チェンジ・エージェント)自身が生み出している可能性、そして抵抗は変革を強化する資源にもなり得るということを主張している。
取り上げる論文
Ford, Jeffrey D., Laurie W. Ford, and Angelo D'Amelio. 2008. "Resistance to Change: The Rest of the Story." Academy of Management Review 33: 362-377.
日本語訳: 変革への抵抗:残りの物語(語られざる側面)
概要
従来の「変革への抵抗」に関する見解は、抵抗を変革の受け手(recipients)の中に存在する不合理で機能不全な反応であるとする、変革推進者(change agents)側に偏った一方的な物語であった。
本論文では、変革推進者自身の行動や不作為が抵抗の発生に寄与していること、そして抵抗が変革にとって有用な資源となり得ることを提案し、物語の「残り」の部分を語ることでバランスをとることを目指す。著者は、抵抗を「受け手の行動」「推進者のセンスメイキング(意味づけ)」「推進者と受け手の関係性」の3要素からなる動的な相互作用として再構築し、変革マネジメントにおける抵抗の役割を拡張することを結論づけている。
本論文の主要な理論・概念
本論文は、多数の先行研究を批判的に検討し、新たな視座を提供している。以下に主要な理論的支柱となる研究を紹介する。
(1)従来の「抵抗」観への批判
Dent & Goldberg (1999a) や King & Anderson (1995) は、従来の抵抗に関する視点が一方的であり、変革推進者やスポンサーに有利なバイアスがかかっていると指摘している。この視点では、推進者は「正しく適切なことをしている」とされ、受け手は「不合理な障害を作り出している」と描写される。Klein (1976) もまた、推進者が不当な被害者として描かれている点を指摘している。
(2)センスメイキングと構築主義的アプローチ
本論文の核となる概念は Weick (1979, 1995) による「センスメイキング(意味づけ)」である。推進者は客観的な現実をただ報告しているのではなく、自分たちの環境を「イナクト(enact/創出)」している。Gioia et al. (1994) は、変革において推進者は「これはどう達成されるか」、受け手は「自分に何が起こるか」という意味づけを行うとしている。 また、Berger & Luckmann (1966) の社会的構築主義の視点を取り入れ、推進者が自分たちの解釈をあたかも独立した客観的事実であるかのように具体化(reify)してしまうプロセスを指摘している。
(3)自己成就的予言とピグマリオン効果
Eden (1984, 1988) や Watzlawick (1984) の研究を引用し、期待が現実を作り出す効果について論じている。もし推進者が「抵抗は必ず起きる」と信じて変革に臨めば、些細な反応も抵抗として解釈し、実際に抵抗を引き起こすような行動(秘密裏に進めるなど)をとってしまう。これを "Surprise, surprise"(やっぱり出たか)という現象として Dent & Goldberg (1999a) が引用する Winslow の言葉で説明している。
(4)心理的契約と組織的公正
抵抗の原因として、Rousseau (1995, 1996) や Morrison & Robinson (1997) による「心理的契約の違反」が挙げられている。合意や約束が破られたとき、受け手は裏切りを感じ、信頼を失う。また、Cobb et al. (1995) や Folger & Skarlicki (1999) による組織的公正(Organizational Justice)の研究も重要である。不公正な扱いは報復や非協力を引き起こすが、これらが推進者によって「抵抗」とラベル付けされることが多い。
(5)コミュニケーションと接種理論(Inoculation Theory)
コミュニケーションに関しては、Ford & Ford (1995) の「会話としての変革」という視点が用いられている。 さらに、McGuire (1964) の「接種理論」が紹介されている。これは、弱い反論に晒されることで、人々がかえって自説を強化し、将来の説得に対する免疫をつけてしまうという理論である。推進者が十分な正当化を行わず、中途半端な説明(弱い議論)で説得を試みると、受け手は反論を構築し、変革に対して「免疫(抵抗力)」を持ってしまう 。
(6)リアクタンス理論
Brehm (1966) の心理的リアクタンス理論は、外部から自由を脅かされたと感じた時に人々が抵抗することを示唆している。これは、抵抗が単なる不合理性ではなく、組織や自身の価値を守ろうとする高いコミットメント(関与)の表れである可能性を示している。
本論文の主張
過去数十年間の変革管理および組織行動論の文献をレビューし、従来の「抵抗」概念の偏りを特定し、以下の3つの主要な論点を「語られざる物語(The Rest of the Story)」として提示している。
(1)センスメイキングとしての抵抗:推進者によるレッテル貼り
「抵抗」は客観的な現象ではなく、推進者が受け手の反応を解釈する際に貼るレッテルである。
・期待効果: 推進者が抵抗を予期することで、受け手の曖昧な行動も抵抗として認識してしまう(確証バイアス)。
・自己防衛的な説明(Account): Scott & Lyman (1968) が定義する「アカウント(申し開き)」として抵抗が利用されている。変革がうまくいかないとき、推進者は自らの計画不備や能力不足を認める代わりに、「受け手が抵抗したからだ」と責任転嫁することで、自らの立場を守り、評価を維持しようとする。抵抗は、推進者にとって都合の良い「免罪符」となっている。
(2)変革推進者による抵抗への寄与
推進者は以下の行動を通じて、自らが嫌う「抵抗」を自ら作り出している。
①合意の破棄と信頼の毀損: 過去または現在の心理的契約を破り、信頼を回復しないままでいることが、受け手のシニシズムや非協力を招く。これは推進者の不作為による寄与である。
②コミュニケーションの失敗:
・正当化の欠如: 変革の必要性を十分に説明せず、受け手の精査(scrutiny)を単なる抵抗として却下することで、受け手に「免疫」を与えてしまう。
・不実表示(Misrepresentation): 意図的か否かに関わらず、変革のメリットを誇張したりコストを隠したりすることは、後に「騙された」という感覚を生み、抵抗の火種となる。
・行動への呼びかけの欠如: 「理解のための会話」ばかりで「成果のための会話(Action)」を行わない場合、行動が起きないのは当然だが、推進者はこれを抵抗と誤認する。
③抵抗への抵抗(Resisting Resistance): 受け手の懸念や指摘に対して、推進者が防衛的になり、耳を貸さない態度をとることもまた、一種の「抵抗」である。この「抵抗への抵抗」が、抵抗の悪循環(vicious cycle)を生み出す。
(3)資源としての抵抗
抵抗は除去すべき障害ではなく、変革の成功に寄与する資源となりうる。
①存在価値(Existence Value): 新しい会話(変革)は消えやすい。批判や不満であっても、話題にされ続けることで変革という会話が組織内に維持される 。無視されるよりは、抵抗される方が変革が「生きている」証拠である。
②エンゲージメント価値(Engagement Value): Reactance theory (Brehm, 1966) が示唆するように、抵抗は心理的関与の裏返しである。無関心や無思考な受容(unthoughtful acceptance)よりも、思慮深い抵抗の方が、組織への深いコミットメントやアイデンティティを反映している場合がある。
③強化価値(Strengthening Value): 抵抗はコンフリクト(葛藤)の一形態である。Amason (1996) が示すように、適切なタスク・コンフリクトは意思決定の質を高め、コミットメントを強化する。抵抗による指摘は、変革計画の不備を修正し、より強固なものにするフィードバックとして機能する。
考察
(1)理論的インプリケーション
この新しい枠組みは、組織変革研究に以下の理論的転換をもたらす。
①心理からシステムへ: Lewin (1952) が当初意図したような、システム的な現象としての抵抗概念への回帰である 。
②センスメイキングの決定権: 「なぜ受け手は抵抗するのか?」という問いから、「なぜ推進者はある行動を抵抗と呼び、他をそう呼ばないのか?」という問いへの転換を促す。推進者の解釈が介在しなければ、単なる「行動」は「抵抗」にはなり得ないという認識論的転換である。
③公開性(Public Nature): 抵抗を推測上の「内面的な動機(恐怖や不安)」として扱うのではなく、公的な「会話や行動」として扱うことで、観察・対処可能なものとする。
(2)実践的インプリケーション
実務家(マネジャー、変革リーダー)に対しては、以下の示唆が得られる。
①「抵抗の克服」からの脱却: 「抵抗をどう克服するか」という発想は、一方的で時代遅れである。代わりに「関係性の管理」と「自分たちのセンスメイキングの自覚」が必要となる。
②過去の清算: 過去の裏切りや不信感が現在の抵抗の原因となっている場合、謝罪や修復(closure)を行うことが、抵抗を減らすための強力なツールとなる。
③フィードバックとしての活用: 受け手の不満や批判を「抵抗」として却下せず、「カウンターオファー(対案の提示)」として聞くこと。Winograd & Flores (1987) の会話モデルを引用し、拒絶に見えるものを「条件付きの承諾」として捉え直すことで、交渉と改善の余地が生まれる。
④自分自身を見る: 推進者は、「彼らが抵抗している」と嘆く前に、「自分のどの行動(説明不足、信頼毀損、無視)が彼らの反応を引き起こしたのか?」と自問する必要がある 。
感想
周辺に置かれた人々について眼差しを向けると、抵抗の意味合いも変わってくる。特に変革者自身が抵抗勢力を生み出しているという見方はとても共感する。私自身もアプローチの間違いで、強力な抵抗勢力を生み出しちゃったことあるよなとほろ苦い思い出を思い出す。
