【論文メモ273】組織変革への反応のメカニズム:最新レビュー論文(Oreg & Sverdlik 2026)
組織変革への従業員の反応については、「抵抗」(resistance to change)という観点での論文を読むことは多かったが、それだけではない反応について、様々な概念を用いて捉えた論文を今回は取り上げたい。
そして、その反応の先行要因と成果要因といいうメカニズムについてもレビューしている。
この論文の中で、面白かったのは、組織変革への反応として、「抵抗」という反応は、フィードバックをもらうという意味で必ずしも悪いことではなく、むしろ受動的な「受容」は何のフィードバックももたらさないという意味では良いものではないとの分析である。
組織変革を時間のかかる取り組みと捉え、従業員のフィードバックを踏まえてより良いものにしていくという視点は実践の際にも大切にしたい。
取り上げる論文
Oreg, Shaul and Noga Sverdlik. 2026. "Responses to Organizational Change: Evolution of the Concept, Established Findings, and Future Directions." Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior 13: 387-413
日本語訳:組織変革への反応:概念の進化、確立された知見、および将来の方向性
概要
本論文は、2008年から2024年までの組織変化への反応に関する研究を包括的にレビューしたものである。従来主流であった「変化への抵抗」という一面的な捉え方を超え、本稿では4つの概念的レンズを提示する。まず、反応を感情・認知・行動の側面から捉える「三部構成アプローチ」、次に、反応の「正負(価数)」と「能動・受動(活性化)」の2軸で整理する「サーカムプレックス・モデル」、そして、相反する評価を同時に抱く「アンビバレンス」、および「分析レベル」の視点である。これらを通じて、変化の先行要因(受容者特性、プロセス、文脈等)と帰結のメカニズムを統合的に解説する。実務家に対しては、単なる抵抗の排除ではなく、従業員の「活性化」を促すマネジメントの重要性を強調している。
本論文の主要な理論・概念
本論文では、先行研究を以下の4つのレンズで整理している。
(1) 三部構成アプローチ(Tripartite Approach)
態度の古典的理論(Katz 1960)に基づき、変革への反応を感情(Affect)、認知(Cognition)、行動(Behavior)の3つの成分に分類する 。
①行動的反応: 最も研究が多く(Rodell & Colquitt 2009; Venus et al. 2019)、変革への支援や抵抗、チャンピオン活動などが含まれる 。
②認知的反応: 変革へのコミットメントや準備性(Readiness)として測定され、しばしば媒介変数として扱われる(Drzensky et al. 2012; Herold et al. 2008)
③感情的反応: 研究数は最も少ないが、変革への不安などが distal な成果の予測因子となる(Rafferty & Restubog 2010)
(2) サーカムプレックス・モデル(Circumplex Approach)
従来の「抵抗か支援か」という価数(Valence:正負)だけでなく、活性化(Activation:能動・受動)の軸を導入した(Oreg et al. 2018, 2024) 。これにより、反応を4つのタイプに分類できる
①変革へのプロアクティブ(Change Proactivity): 正・能動(支援、チャンピオン活動)
②変革への受容(Change Acceptance): 正・受動(協力、順応)
③変革への離反(Change Disengagement): 負・受動(沈黙、無関心)
④変革への抵抗(Change Resistance): 負・能動(反対意見の表明、妨害)
(3)変革へのアンビバレンス(Ambivalence)
Piderit (2000) が提唱した概念で、感情・認知・行動が一致せず、ポジティブな面とネガティブな面を同時に抱く状態を指す 。例えば、変革が斬新さを提供する一方で自律性を脅かす場合、アンビバレンスが生じやすい(Sverdlik & Oreg 2009) 。
(4)分析レベル(Levels of Analysis)
個人の反応だけでなく、グループや組織レベルの「集合的な反応」という概念が注目されている(Bouckenooghe et al. 2019; Rafferty et al. 2013)。ユニット内での反応のばらつき(アシンメトリー)が、変革の有効性に影響を与えることも示されている(Kanitz et al. 2023)。
方法
・2008年から2024年までにトップティアのジャーナル(AMJ, JAP, JOM等)に掲載された、心理学的アプローチを用いた定量的・実証的研究を対象とした 。
・Google Scholarを用いたキーワード検索("responses to change", "reactions to change", "change attitudes")により論文を抽出 。最終的に87件の実証論文およびメタ分析を分析対象とした 。
結果
分析の結果を以下の概念図でまとめている。

(1)先行要因(Antecedents)の5分類
①変革受容者の特性(Recipient characteristics): 自己効力感や情動的安定性(正の影響)、性格的な変革への抵抗感(負の影響)が確認されている(Gonzalez et al. 2023) 。
②変革の文脈(Change context): 組織変革前から存在するリーダーシップ(倫理的・変革的リーダーシップは正、虐待的リーダーシップは負)や組織風土が強力な予測因子となる 。
③変革のプロセス(Change process): 変革に関する情報の提供、コミュニケーション、参加の機会、公正性の感覚は、ポジティブな反応を導く(Faupel & Helpap 2021; Rodell & Colquitt 2009) 。
④変革の内容(Change content): 変革の規模(Magnitude)や頻度、強制的か自発的かといった属性が影響する 。
⑤知覚された便益/危害(Perceived benefit/harm): 最も近接した予測因子であり、個人の利害(地位、仕事の難易度)との一致度が重要である 。
(2)成果(Outcomes)
①仕事関連の成果: ポジティブな反応は、パフォーマンス、職務満足度、組織コミットメント、適応性を高め、離職意図を低下させる 。
②個人的な成果: ウェルビーイングや燃え尽き症候群に関する研究は非常に少なく、今後の課題である 。
③アンビバレンスの影響: アンビバレンスを抱く従業員は、適応的なパフォーマンスを示す一方で、反生産的行動をとる可能性もあるという複雑な結果が示されている(Kanitz et al. 2024; Vakola et al. 2021) 。
考察
(1)発見事実
最大の発見は、活性化(Activation)の重要性である。単なる「受容」よりも「能動的な支援(チャンピオン活動)」の方が成果への影響が大きく(Fugate & Soenen 2018)、また能動的な「抵抗」は変革への有益なフィードバックを含み得るのに対し、受動的な「受容」は何のフィードバックももたらさない(Oreg et al. 2024)。また、アンビバレンスが必ずしも否定的なものではなく、多面的な視点を持つことで変革への適応を助ける側面があることも示唆された 。
(2)理論的インプリケーション
理論的には、反応を価数(Valence)の一軸で捉えることの限界が示された 。サーカムプレックス・モデルは、負の能動的反応(抵抗)と負の受動的反応(離反)を区別し、後者が最も観察しにくく、ウェルビーイングや成功に悪影響を及ぼす可能性を指摘している。
(3)実践的インプリケーション
実務家(チェンジ・エージェント)への示唆として、管理すべきは「抵抗の除去」だけではなく、「活性化の促進」である 。
①能動的抵抗の価値: 能動的な抵抗には改善のヒントが含まれている可能性があり、一方的な抑圧は逆効果である 。
②受動的な離反への警戒: 沈黙や無関心といった「離反」は、最も望ましくない反応であり、これを見逃さないよう注意が必要である 。
③参加の重要性と文化: 参加の機会提供は有効だが、権力格差の大きい文化圏ではその効果が弱まる可能性があるため、文脈に合わせたマネジメントが求められる 。
