『決着つけてくるね、って言われても。笑』
大学のとき、友達に紹介してもらった美容室に通ってた。
ちょっと高めだったけど、雰囲気もオシャレで、美容師さんも話しやすくて。
3回くらいは切ってもらったかな?
でも、学生の財布にはちょっときつくて、途中から安いとこに乗り換えた。
で、それから3ヶ月くらい経った頃──
知らない番号から、着信があった。
「もしもーし。わたし、わかる?」
えっ?なに?こわ。笑
女の人の声だったけど、どこかで聞いたことがあるような…
脳内フル回転した結果、
「もしかして、○○さん?」
「正解!よくわかったね〜」
当時通ってた美容室の人だった。
30歳。綺麗で、落ち着いた雰囲気。既婚。
「最近サルビスくん来てくれないから、名簿見て電話しちゃった。笑」
それ、やっていいんですか?笑
「いやー、すいません!金欠で、今ちょっと他のとこで…笑」
「えー、ひどい〜笑」
「じゃあ切ってあげよっか?お金いらないし」
「えっ、どこでですか?」
「サルビスくんのアパート。笑」
なにその展開。笑
「いやいや、お金ないし大丈夫ですって!」
「じゃあ、一杯だけ付き合ってよ。おごるから」
……おれ、酒弱いんですけど!?笑
そして、ほんとに日にちを決めて飲みに行くことになった。
軽く一杯…と言いつつ、ちょっと緊張してた自分もいた。
その場でいろんな話をされた。
仕事のこと、家庭のこと、人間関係のこと。
その流れで、ふとした感じで言われた。
「ちょっと気になってるんだよね」
「どうこうなりたいとかじゃないけど、ただ伝えたくて」
なんやそれー!!笑
…って思ったけど、
その時、ほんの一瞬だけ「もしも…」って想像した自分がいたのも、事実だった。
すぐに理性が「いやいや、既婚者やろ」って止めてくれたけど。笑
で、翌週。
本当に家に来てくれて、アパートで髪を切ってもらった。
ハサミを持って、エプロンも持参で。
なんか…ガチやん。笑
チョキチョキと髪を整えながら、たわいもない話をして。
でもその静けさが、なんか妙に落ち着かなかった。
シャッ、シャッとハサミの音だけが響く部屋。
ふと気づくと、おれは目を閉じたまま、何かを期待してしまいそうになっていた。
でも、何も起きなかった。
ほんとに、普通に髪を切って、整えて、
「じゃあね〜」って感じで、帰り支度を始めた。
靴を履きながら、ドアの前で彼女が言った。
「じゃあ…決着つけてくるね」
え?
決着って、なにと?
誰と?
どういう意味?笑
頭が追いつかんまま、彼女はドアを開けて外に出た。
その後、連絡は来なかった。
なにも起きなかったけど、
あの時間と、あの言葉は、なぜかずっと残ってる。
今なら、少しだけわかる気がする。
あれはきっと、彼女なりの“区切り”だったんだと思う。
髪を切ってくれたはずなのに、
一番鋭かったのは、あの言葉やったかもしれん。
未遂って、記憶にしぶとい。笑
【end】
